この街と砂漠の中のオアシスの一日 <8行×4場面×2ヶ所=64行詩>



この街の朝

白いシーツは汗で薄黒く汚れ

どうりで 目覚める前の夢では川で溺れていた

東の窓際に置いてある温度計の針が40℃を回り

なんでこんなところに温度計を置いているのか

毎年思うけど その位置を変えることはせず

吸殻でいっぱいになった灰皿を見てため息をつきながら

朝 最初の一本に火をつける


砂漠の中のオアシスの朝

白いレースのカーテンがゆったりと揺らぎながら

それでも暑い陽射しをやさしく受け止めるから

ようやく朝が来たのだと気づくことができる

隣で寝ている白い二本の足は まだぴたりとして動かない

白いシーツはさらさらと乾いていて再び 眠りを誘ってくる

顔にかかる髪を 指でそっとどけて

しばらく その寝顔を見ることにする




この街の昼

ぶーん と音をさせて回る扇風機

時折 外から吹き込む風にその音色を変える

油蝉の息の長い鳴き声とのコーラスはちっとも噛み合わない

相変らずちっとも片付かない自分の部屋の

ちっとも片付かない自分の机の上で

上から下まで汗を掻きながら

早く飲み干してほしい旨を伝える麦茶が入ったコップがひとつ


砂漠の中のオアシスの昼

真っ青な空に 白い絵の具を薄くつけた筆で描いたような雲

いろいろな音をさせるものは周りにあれど

二人の耳には聞こえず

互いにだけ通じる言葉で 互いのことだけを話す

街の中の緑は細かく風に揺れ 二人をいつも歓迎する 

目に付いたものを手に取り 短く言葉を交わした後で

元に戻してから 歩き始める




この街の夕

相変らず高校野球の応援ラッパと太鼓の音がしている

目を向けると 焦げ茶色の土の上で白い若者が踊っている

薄水色のブラインドはとっくに陽に焼けて

格子状に見えている向こうの家の瓦は茜色に染まっている

抜き足差し足で熱さに耐えながら歩く猫の姿はとっくになく

その代わりに 帰る山を見定めるカラスが瓦屋根を陣取る

かなかなと鳴くヒグラシだけがラッパや太鼓に挑んでいる


砂漠の中のオアシスの夕

西の空の一番星を見つけたら

辺りを見回して月の出を探す

一日の終わりを名残惜しそうに咲いてる芙蓉の花を眺めたら

一日の喉の渇きをどこで癒すか二人は短く相談して

二つの影を背中の方に携えながらオレンジ色の道を歩く

月の出をあきらめていないから 時々 見渡すけれど

二つの影はその色を薄めながら長く伸びていく




この街の夜

ようやく草いきれが無くなったことに気づいたけれど

日中に鳴き足りない油蝉が電灯を頼りにどこかで鳴いている

神様も仏様もその仕事を終えても 

にんげんは明るく灯し 眠らせることを許さない

暑さが一段落したのに合わせて蜘蛛が獲物を待ち始める

僕は着物を着るかどうか迷いながら やっぱり転寝をしてしまい

寝汗をたくさん掻いて起きるまで 少なくとも思い出すことは無い


砂漠の中のオアシスの夜

月の出を確認したら 

濃い色のカーテンを引いて

音がまったく無い白い部屋で

互いにだけ通じる挨拶を短く交わしたら

白いシーツの上に滑り込む

掻いた汗で薄黒くなることはあっても

朝までにはきっと乾いているはずだから




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る