春雨とその後



雨が降って

いつもの場所に水溜りができて

水溜りに雨粒がいっぱい落ちて

陽が射して

水溜りがキラキラ光って

水溜りに見とれれていると目が痛くなって

車が道路を猛スピードで駆け抜けて

目と耳がそれに奪われて

舌打ちをして

目線を水溜りに移すと

光ってなくて

空を見上げると太陽が雲に隠れていて

あきらめて歩き始めて

細い松の枝の先に雨のしずくがへばりついていて

立ち止まって

しばらく松の枝の先を見ていたけど

しずくは落ちそうでいてなかなか落ちなくて

あきらめて

目線を広角にすると

無数の松の枝の先にしずくがたまっているのがわかって

なんだか結構しずくは落ちていて

悔しいから

さっき凝視していた松の枝がどれだったか探してみたけど

やっぱりわからなくて

あきらめて歩き始めて

さっきの喧嘩の始まりを思い出そうとしたけど

怒って真っ赤になった顔や

大きく開いた口の絵しか思い浮かばなくて

しかも断片が何度もリピートされるもんだから

原因を思い出すのをあきらめて

謝る言葉を探してみたけれど

無言のまま台所で何かを切っていたり

神経質にガスコンロのつまみを何度もひねっている絵しか思い浮かばなくて

おまけに子どもは何もなかったかのように笑っていて

それが無性に腹立たしかったり

逆にそれにほっとさせられたり

子どもの名前を笑顔で呼んで抱きついたりしたらどうなるかと思ったけれど

それもなんだか悔しくなって

そうなったら

玄関の戸を開けたときのガラガラという耳障りな音を思い出して

きちんと並んでいる幾つかの靴の絵を思い浮かべると

やはり拒まれているような気がして

立ち止まったんだけど

そういえばとっくに雨はあがっているのに

ずっと傘をさしていたのに気がついて

空を見ながら傘をたたんだら

なんだか心の重荷がとれて

家へ帰ろうと思えたんだ



なんだか

塀の上にしゃがんでいる猫にもあいさつをしたよ




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