春の初めに



たどりついたら そこは

思ってたよりも 風が強くて

拍子抜けするくらいに ありきたりな風景の場所だった


道路は 大きなカーブを描いていたし

トラックは エンジン音を唸らせて走り去ったし

カラスは 近づけば飛び立った


桜のつぼみは 誰にも気づかれないように膨らんだし

僕は いつもと同じ煙草を吸ったし

真っ黒い猫は 何度も後ろを振り返りながら音を立てずに歩いていた



何から話していいかわからなかったから

とりあえず 「落ち着いたところだね」

て 誉めてみた


君は 予想通り返事をせず

おまけに 足元の石ころをつま先で蹴飛ばして

つまらなそうな横顔を僕に見せた


「変わったバス停の名前だったね」

どうしても声が聞きたくてそう言うと


「ばっかみたい」


と すかさず言われた



「爽健美茶飲む?」

この状況を認めたくない僕の精一杯の問いかけに

君は これ以上ない冷たい一瞥だけを僕にくれた



どこからか 陽に干した布団を叩く音がする

おまけに “のど自慢”の鐘が2つ鳴って

誰かの大きなくしゃみも一回した


建物の日陰になった場所には小さな雪の塊

黒い靴跡は 4歩目から薄く消えかかってる


こんなにも短い時間が

こんなにも長く感じられるんだから

今日の終わりに

僕は何を思っているんだろう


いや

そんなことより

とりあえず

次の言葉を探さなくちゃ



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