心に留めておける言葉



貧しい国に住んでいる

貧しい人の映像を見た


自分がそこに生まれてたら

と 思ったけど

自分は ひとりしかいなくて

その自分は この日本に住んでいる

自分以外の自分はいないから

貧しい国に生まれるはずも

居るはずもない

から

そんな感情はナンセンスなんだろう


だけど 映像を見続けていると

なぜか だんだん ナンセンスな方へ

思いが寄っていく



大きな目は なおもカメラを見つめる

その大きな目の先にいる僕のことなんて知らずに

大きな目がカメラを見つめる


僕はソファに座って彼らを見つめ

彼らは布切れを体にまとってカメラを見つめる


僕はペットボトルに口をつけたまま彼らを見つめ

彼らは水の入ったカメを頭にのせながらカメラを見つめる


彼らは 僕の目の大きさや色なんて知らない

僕だけが 彼らの目の大きさや色を知っている


僕はテレビを消すけれど

きっと

彼らはその後もカメラを見続けているんだろう


それが すべてだ



誰かの歌の詞を思い出す

「不自由と叫んでいる自由がここにある」


僕が心に留めておくことができるのは

この言葉くらいだ




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