風の強い日のサヨナラ



風の強い日

瞳の中でサヨナラを言った


後姿の君のスカートは左にたなびいて

手で押さえた髪の毛も左にたなびいていた


君に背を向けた僕の目の前には

細々した黄土色の枯れ草が右側に倒れているだけの

一本道


右にたなびくマフラーを巻きなおしてから

歩き始めたけど

遠近法の向こうまで歩く自信が無くなって

振り返りたい と思ったけど

それを我慢しなきゃ と誰かがささやいたので

灰色の空の方へ歩みを止めなかった


すぐ気がついたんだけど

弱々しい自分の影が

それでも長く伸びていて

その影も なんだか右に傾いてるように見えたことを

君に伝えたい という理由で

振り向いてみたけど

そこには白い雲の後ろで鈍く光を放っている

夕陽しかなかった


ほんのさっきまで

二つの影が傾いていたのかな


この強い風で

きっと

きっと 傾いていたんだよね





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