僕が初めて買うアルバム



泥がついたスニーカーと

雨にすこし濡れた体操着のまま

今日も帰りにここに立ち寄ってしまった


透明なドアを押して入ると

店員さんは「いらっしゃいませ」

と一応言ってくれたけど

ほんとは“またか”って思ってるんだろう

横目でちらりと会釈して

まっすぐに洋楽コーナーへ


「A」とか「J」とかの列をぺらぺらと

いつもと違うレコードを探す振りをしてみるけど

偶然見かけたかのように「C」の列に手を伸ばし

“確かこの辺り”

と手の動きを遅めて

そして手を止めて抜き取るジャケット


“よかった まだ売れていなかった”


今まで 何度確認したかわからない

2人が演奏しているジャケット写真と

「2枚組定価4000円」の文字


“待っててね あと10日で2ヶ月分の小遣いがたまるから”


とジャケットに願いを込めて

「豪華カラーピンナップつき!!」の文字に

やっぱり 期待に胸ふくらみながらも

名残惜しく ゆっくりと「C」の列の真ん中に返して


他には何もしないで透明なドアを引いて雨降る外に出て行った


帰り際

店員さんは「ありがとうございました」

って言ったけど

10日後はほんとに ありがとうございました 

だぞ!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る