前も後ろもライバル



一週間に5日 すれ違う車がある

7:20ごろ だいたい同じ場所ですれ違う

こんな田舎では そう珍しい話じゃない


その車は 後ろに羽がついた赤いスポーツカーで

いつも ボディがピカピカしている

晴れた日は遠く信号待ちしているところから

それとわかるし

雨の日は 赤色をよりいっそう引き立てながら

カーブした道を滑らかに走ってくる


運転手は緩やかにパーマネントさせた黒髪の女の人で

同乗者はいない

瞼が大きくて目鼻立ちがはっきりしている綺麗な女の人だから

運転手を確認する時間が1秒なくても目に焼きついてしまって

早数ヶ月


果たして

僕の車や運転手の僕を彼女が認めてくれてるかどうかは自信はないが

僕は彼女を完全に認めきっている



お互いにだいたい同じ時間に家を出て

同じ時間に同じカーブを描く道路ですれ違う

こんな田舎だから

同じ時間に同じ場所ですれ違っている車なんて

お互いに数十台 数百台あるんだろうけど

僕が 唯一それと認めているのは

この赤いスポーツカーだけだ


果たして

彼女は僕を唯一の車と認めてくれているか


救いなのは

この車にしてから

通勤途中を含めて

僕と同じ車種・色の車にすれ違ったことはいまだかつてないことだ


いや 待てよ

朝 彼女とすれ違う数十台の

いや 数百台の車が

僕と同じ気持ちだったらどうしよう



「果たして 僕を認めてくれているか」って





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