木曜日



7時24分。

娘に後追いで泣かれてしまって、

抱っこしていたら遅くなってしまった。

遅刻はしない時間だからだいじょうぶだけど、

車の流れは全然違ってくる。

まずは、あのとんでもなく遅い白のヴィッツは免れない。

問題は、ヴィッツを先頭に時速40kmの長い数珠がどこでできるかだ。


まあ、いい。


木曜日は、「ザ・ベストテン」の日だ

った。

だけど、当時中学生だった僕の家では、滅多に見れなかった。

親父がその時間、NHKのニュースを見るからだ。

家のチャンネル主導権は、完全に親父が握っていた。

普通に「見せて!」と言っても首を縦に振らないので、

いよいよ松山千春が初出演する日は、

妹と共に玄関先で土下座をして親父の帰りを迎えた。

「お帰りなさいませ。お仕事おつかれさまでした。」

「お風呂になさいますか?それともご飯になさいますか?」

それで親父の笑いを取って、おそらく第1位の「季節の中で」の時間だけ確保した。

だから、特にファンでもないのに、

その日の松山千春の顔を今でもよく覚えている。


こんなことを若い子に話すと、

“戦時中”みたいな顔をされてしまう。

今では、ありえない家族風景。

それとも、あっちゃいけない家族風景?



あっちゃいけない風景は、もう目の前に展開されていた。

そう、白いヴィッツ・・・

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