名もない人
どこに行っても
名もない達人がいる
おそらく勲章はもらえず
新聞に出ることもないだろう
達人は
ありきたりな真剣な顔で
黙って手を動かす
僕は口を開けたまま感心するんだ
どこに行っても
名もない偉人がいる
おそらく額に入った賞状はたくさんあるだろうけど
テレビに出ることはないだろう
偉人は
ありきたりな笑みを浮かべながら
自分の言葉でしゃべる
僕は笑わずにうなづいているんだ
中学生のころまでは
この世界は2000人くらいでできている
と思っていた
だけど
高校生になったら
2万人くらいかなって思い直した
大学受験で東京に行ったときは
目が回って考えるのをやめた
目黒駅前を歩いている人たちみんなが
僕が受ける大学を受験するんじゃないかと思った
学生服を着ている人も
ネクタイをしめている人も
みんな みんな 僕の大学を受験するんじゃないかって
いや待てよ
山手線って幾つ駅があるんだっけ
今 その駅前を歩いている人って何人いるんだ
そう思うと
僕は スポーツバックのチャックを閉めて
ホテルの部屋に戻って
カーテンを閉めてベッドに入ったんだ
今は
東京じゃないド田舎で
数え切れないくらいの名もない達人や偉人と
出会えることを楽しみに
今日も
田んぼの真ん中の道を車で走らせるんだ
そういえば
あれ以来
目黒駅に降りていないんだなあ
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