きみの存在



久しぶりに車に乗ろうと思ったら

ドアノブにクモの巣がかかっていた

わかっていながら

クモの巣を払おうとしたら 指に絡みついた


車を走らせたら

すぐに渋滞にぶち当たった

窓から顔を出すと

道の真ん中を古い乳母車を頼りに

時速0.004kmで歩く老婆がいた


点滅信号のところで一時停止しない車が右折してきた

僕の車の前を

灰色の煙をマフラーから噴き上げて逃げるように走り

次の交差点を右折した

そして赤信号が僕の車を停めた


カレー屋に入ってロースカツカレーを注文したら

メンチカツカレーが来て

さらにアイスコーヒーまで頼んだのに

この店は終日禁煙だった

煙草なしのアイスコーヒーは

アラビアの歴史の味がした


舌打ちをしながらドアを閉め

曇り空を眩しそうに眺めてから

ため息交じりで家の玄関を上がったけど


きみの顔を見たら

全部忘れちゃった


きみが僕にとってそういう人になるなんて

わからなかったよ



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る