失恋夜

雨に濡れながら歩く

頬をつたうしずくさえ いとおしく感じる

小さな水溜りの面を震わせる雨粒のひとつひとつまではっきり見える


白熱灯の電球をつける

オレンジ色の灯りがあたたかい

手を近づけると 本当に暖かい


バスタオルで体を拭く

起毛した綿の感触が柔らかい

今日は一枚に拡げて干してあげる


部屋が汚い

いつもは気にならない床に置いたDVDにいらつく

左足でつついて見えないところに追いやる


冷蔵庫の中のお茶を飲む

昨日 飲み残したお茶だ

いつもと変わらない味にがっかりする


煙草に火をつける

ドラマと違ってライターは一回で着火してしまう

ドラマと違ってすぐにもみ消さず 短くなるまで吸ってやる


雨音を聞く

窓を閉めているのにはっきりと聞こえる

こんなときに限って間断ないリズムが胸に刺さる


ソファに横たわって不貞寝してみる

案外すぐに眠くなる



明日になったらすべてが元通りだったりして

と 一応願う




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