僕は君に




僕の目を君にあげよう

これで 君は今まで見えなかった世界が見えるようになるんだ


僕はこれまで いろいろなものを見てきたから

この先 世の中が変化しても

その記憶のイメージに頼ってなんとか生きていけるだろう


でも

君の目が見えるようになっても

その君を見ることができなくなるのは

少しつらいことだね



僕の鼻を君にあげよう

これで 君はたくさんの花の香りを味わうことができるようになるんだ


僕はこれまで いろいろな花の香りを味わってきたから

花の名前を言ってもらえれば

なんとかその香りを思い出せるだろう


でも

君が作ってくれるおいしいナポリタンの味がわからなくなることは

少しつらいことだね



僕の耳を君にあげよう

これで 君は素敵な音楽を楽しむことができるんだ


僕はこれまで たくさんの曲を聴いてきたから

いつでも どこでも

それを君に唄ってあげられるよ


でも

君が僕を呼ぶ声が聞こえなくなることは

少しつらいことだね



僕の喉を君にあげよう

これで 君は自分が思っていることを言葉で表すことができるんだ


僕はこれまで 数え切れないくらいの言葉を口にしたから

これから先 黙っていたって

我慢できるさ


でも

僕はもう 君にひとことも言ってあげられない


君をさわって

君を僕の心の中で感じて

微笑むことぐらいしかできない


そうか

君は何も要らないっていうんだね

僕は

ずっと君のそばにいるよ




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る