写真部の少年

月の宮

第1話

写真を撮ることは、ぼくにとっては、あまり楽しいことではなかったけれど、ぼくは、写真部に入部することにした。写真部には、彼女がいるからだ。


写真部では、毎週木曜日に活動があって、学校の外へ、写真を撮りに行く。面倒だが、ぼくも活動に参加する。どうしたら、彼女を自分のものにできるか、考える。彼女は、部員たちに、人気がある。つまらないなあ、と、思う。彼女が誰かと一緒にいると、その誰かの首を絞めたくなる。


今日は、水族館へ、写真を撮りに行った。水族館は、静かな場所だから、物静かな彼女に、ぴったりな場所といえる。彼女は、ぼくの嫌いなあいつと一緒にいた。

あいつは、彼女と一緒にいるだけだった。もっと、彼女のことを大切にしてあげるべきなんじゃないか。ぼくの方が、彼女のことをよくわかっているのに。


今日も、写真を撮る。不思議な、海の生物。どこかへ流れていってしまいそうなところが、クラゲに似ているように思えた。

彼女は、どんな写真を撮っているのだろう。彼女の目には、何が写っているのだろう。彼女を見ていると、あいつがぼくのところに来た。


「何じろじろ見てんだよ」

「別に、きみを見てたわけじゃないよ」

「じゃあ、何を見てんだよ、気持ち悪いなあ」そう言って、彼は彼女と去っていく。


彼女は、いつも無口なのだ。ぼくには、彼女が少し困惑しているように思えた。何故、彼女は、あいつと一緒にいるんだ。早く、ぼくのところに来れば良いのに。ずっとぼくのところにいればいいのに。


帰り間際に、あいつは、イルカのショーを見に行くことを提案した。部員は、それに賛成して、イルカショーのステージへ進んでいく。彼女は、あいつに無理やり連れて行かれる。ぼくにもっと力があれば、きみを助けることができるのに。


観客が少なかったので、ぼくたちは最前列で、ショーを見ることになった。どうかしている。彼女は、水が苦手なのに。部員は、それぞれに写真を撮っている。彼女は、あいつと共に前のめりになって、ショーを見ている。 あいつが、無理やり彼女にそうさせたのか?


「あ!」イルカが、ぼくたちの目の前に飛び上がってきた時、あいつは彼女を手放した。彼女が、ステージの水の中へ落ちていく。ぼくは、とっさに、ステージへ飛び込んだ。


彼女が死んでしまう!

彼女は、どんどん沈んでいく。彼女に腕を伸ばすが、掴めない。ぼくは、苦しかった。でも、彼女はもっと苦しいはずなのだ。

待っててね、きみを、きっと助けてあげるから。

水の中で彼女を抱き寄せたとき、彼女は、きっと微笑んでいた。


ぼくは、観客席まで戻って、彼女を抱きしめた。

「大丈夫だった? ……そうだね、怖かったよね。でも、きみにはぼくがついてるから、ずっと……」

部員たちが、ぼくたちを見ていたが、ぼくは、彼女に、語り続けた。

「……あれ、嘘でしょ? 死なないでよ! きみはぼくのものなのに……、きみが好きだからこんな部活だって入ったんだ。ねえ、目を開けてよ!」

ぼくは、ずっと彼女に語り続けた。顧問の先生の独り言なんて、聞こえるはずがなかった。

「水没しちゃったし、写真部の共用カメラも買い替えどきかなー」








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写真部の少年 月の宮 @V-Jack

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