プリンスとスパイ 5



 「ちょっと、それ、エーボリ公女があんまりかわいそうなんじゃ……」

 スパイが叫んだ。

「フラれた上に、王妃恋仇にとりもて、なんて……。それじゃ、カルロスをひどい目に遭わせたくなるのも、無理はない」


「エーボリは、そんな女じゃない。彼女は清純で、優しい女性なんだ。カルロスを恨んだりはしないよ。カルロスにも、それが、わかっていたのさ。だから、最後の頼みに、彼女を選んだんだ」


 プリンスが言い返す。

 スパイは、眉間にシワを寄せ、プリンスを見つめた。


「清らかで純粋な人って、時に、とんでもなく残酷なんですね……」


「なあ。エーボリのことは、もういいだろ」

 熱に浮かされた人のように潤んだ目で、プリンスがスパイを見た。

「彼女は脇役に過ぎない。カルロスとロドリーゴの友情の物語は、これからが、いいところなんだ……」


 ……。

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