気高い友


 ある臣下が、カルロスに、ロドリーゴが、王の間諜になったと、告げた。彼は、古参の廷臣で、その子どもたちも、カルロスに仕えている。信頼のおける人物だった。


 「なんで、そんな意地悪を言う」

しかし、カルロスは、この忠臣の言葉を信じなかった。

「どうしてお前は、そうまでして、僕とボーサ侯の仲を裂こうというのだ?」


 臣下は顔色を変えた。

「殿下。あまりにひどいおっしゃりようでございます」


「いや、すまない。お前は、僕に忠実に仕えてくれてきたのに、ひどいことを言った」


「宮廷は今、ボーサ侯のお噂でもちきりです。彼は、王の寵愛を一身に受け、ついに、宰相となりました。今や、その権力は絶大だ、と」


「そうか」

カルロスは寂しそうに俯いた。

「ボーサ公は、僕を、愛してくれた。まるで、自分の魂そのもののように、僕のことを、大切に、大切にしてくれていた。……それは、確かなんだ」


「殿下。この私も、確かに見ました。ボーサ侯が、人払いした王の部屋から出てくるのを」


「……そうだよな。彼は、気高い。僕一人より、万人の幸せを望む、度量の深い人間なのだ。彼には、彼の考えがあるのだろう。一方、この僕は、なんて取るに足らない、存在なのだろう。ちっぽけな僕一人を犠牲にして、王に取り入った方が、民の為になろうというもの」


 カルロスは、顔を上げた。

 すがすがしい表情を浮かべていた。


「彼を恨むのは、筋違いというものだ。ボーサ侯は、民の幸せを望んでおられる。彼の胸は、一人の友を受け容れるには、あまりに広すぎるのだ」


「殿下は、それで、よろしいのでございますか?」

すがりつくような目を、忠臣がカルロスに向けた。


「どうしようもあるまい」

打って変わって弱々しい色が、カルロスの瞳に浮かんだ。

「理想を追求してこそ、ロドリーゴ・ボーサなのだ。彼を、この身一つに引き留めることは、本意ではない。まったくもって、本位でない……」


 ……。

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