プリンスとスパイ 3
「なんだ、お前が、ため息なんて」
スパイのため息を、プリンスが聞き咎めた。
何かを振り切るように、スパイは、首を横に振った。
「いいえ。それで、どうなったんです? ロドリーゴは? 彼は、フランデル独立派なんでしょ? フランデルン一揆鎮圧軍の司令官を、カルロスにすることが、希望だったはずです。彼以外の司令官では、ことを、穏便に済ませるのは難しい」
「うん、そこなんだ」
我が意を得たりとばかり、プリンスは頷いた。目が輝き、表情が生き生きとしている。
「フランデルン独立は、王に対する謀叛だ。王も警戒していて、フランデルンとは、連絡を取ることさえできない。慎重に行動する必要がある」
「わかった! それで二人は、うらさびれた僧院で密会するんですね!」
「……なぜだろう。お前が言うと、何か、いやな感じがする。なにかこう、罠にはめられているような?」
「気の所為ですよ」
「カルロスが軍の指揮を取れなかったのは、ロドリーゴにとって、大きな痛手だった。そしてもうひとつ、彼にとって、思いもかけぬことが持ち上がった」
「なんですか?」
「臣下の忠誠に疑問を抱いたフェリペ2世は、心から信じられる臣下が欲しいと希ったんだ。彼が白羽の矢を立てたのは、ロドリーゴ・ボーサ侯だった。王はボーサ侯に、王子の身の回りを探るよう、命じたんだ」
「うっわ」
「彼は、カルロス王子に内緒で、彼の密偵の役を引き受けた」
「なんでまた……。二人は、親友同士なんでしょ?」
「親友だからこそだよ。ロドリーゴは、自分が王子を裏切るなんて、考えたこともなかった。ただ、王の命令は絶対だからね。その上、ロドリーゴの方にも、うまく立ち回れば、王に、フランデルン独立を認めさせることができるかもしれないという、計算が働いた。王を説得して、カルロスを、フランデルンに派遣させることができると、考えたのだ」
「その辺の計略を、ロドリーゴは、カルロスに話すべきでした」
「でも、彼は親友に、どんな小さな心配事も与えたくなかったんだ。それは、気持ちよく眠っている者を叩き起こして、頭上に広がる黒雲を指差すような行為だからね。ロドリーゴはただ、カルロスが目を覚ました時に、うららかな青空を見せてあげたかっただけなんだ。それなのに……」
……。
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