【幕間】キャッスル・イン・ジ・エアー
第12話 きっと誰もが
音楽が好きだ。
将来はバンドでプロになって、いろんな会場にツアーで行って、ファンからチヤホヤされて、ヒット曲の印税で悠々自適に暮らす。そんな絵空事を思い描いていた。
それは、あまりにも漠然とした夢。
音楽で世界を変えたいとか、誰かを救いたいとか、平和をもたらしたいとか、そんな大層な思いは無い。ただ好きな音楽で食べていけたらという、甘ったれた考えだ。
それでも、自分で楽器を、ベースやギターを演奏するようになって、作曲も意外と簡単にできるようになったりして、自分は才能に溢れた、特別な存在なんだと思うようになっていた。
しかし、そんな万能感は長くは続かず、自分が何者でもない、有象無象の一員だと気づいてしまう時が訪れる。
音楽が好きな気持ちなら誰にも負けないなんて、言ってみたところで何の意味もない。当たり前のこと。皆、音楽が好きだからやっている。その中で、才能と運と行動力を兼ね備え、努力を続けた者だけが、本当に特別な存在だけが、スポットライトを浴びることを許されるのだ。
数えきれない凡人たちが、その事実にいつしか折り合いをつけて、別の道を歩きはじめるのだろう。胸の奥に、ほんの少しの燻りをいつまでも抱えたまま。
自分もその例外ではないはずだった。ぼんやりと、将来はバンドもやめて、どこかの企業に就職して、平々凡々とした毎日を送る自分の姿が想像できた。
それを認めたくなかった。
玲に出会った瞬間、直感した。あぁ、特別な存在とは彼女のような人間のことを言うのだと。彼女と一緒なら、きっと一人では辿り着けない場所へ連れて行ってくれる、見たことのない景色を見せてくれると。
夢は未だ、醒めないまま。
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