第8話 私は嘘つきではありません!!

「今日のフォーカスオン現代は、政府のあの政策についてです。」


雪子がフォーカスオンに出ると聞いて録画しておいた番組だ。結婚承諾法の光と闇というテーマらしい。


「まずは、政府広報で有名な『あの方』です」

画面は雪子とレポータの対談風景になる。


「雪子さんは結婚承諾法についてどう思われますか?」

「そうですね、私自身、とても素敵な方とマッチングされまして、その方は一般人なんでこの番組ではご紹介できないのですけど、今から沢山子供を産んで素敵な家族団欒がある家庭にしたいと意気込んでおります。」


「しかし、雪子さんはたまたま良い相手に恵まれたから良いものの、中にはこんな事例もあるようですよ。」

画面が切り替わる。


「とある結婚承諾法・専門法律事務所に取材してみました。」

すると声が変わっているが悠太には明らかにアデル弁護士だとわかる人物が語る。


「正直、結婚承諾法は弁護士にとってはありがたい法律ヨ。私のところには結婚承諾法で悩むお客さん沢山くるネ。稼げるからいいけどネ。中には思い余ってストーカになるお客さんいるネ。私止めたヨ。でも愛があるなら許されるとお客さん思っているヨ。あろうことか男の人を押し倒すビッチの例もあるネ。弁護士として許せないヨ……。」

 アデル弁護士は肩をすくめると。

「私この仕事していると人間不信になりそうヨ。」

と暗い声で言う。


画面が元に戻り雪子が映る。

「いかがでしょうか?ストーカ危険女排除命令が出ないのが不思議だと法律家の方は嘆かれていました。このような女の人がでるのは大きな社会問題ですねぇ。雪子さんはどう思われますか?」

雪子はしれっと。

「普通の女性はストーカにはなりませんから。どのような法律があっても、守れない方はおりますし。その横断歩道をちゃんと渡れない方がいても、道路交通法が悪いわけじゃないわけです。もちろん、ストーカは困りますけれども……。まして、男の方を押し倒すとか、私の常識では考えられないです。一部のマイノリティーの非常識な行動でこの政策が否定されるのは、私はおかしいと感じますね。」

自分が悠太にストーキングしたことは棚に上げて言う。


「そうですか?ではさっきの弁護士さんのお客さんの声です。特別に顔出しを許可していただきました。」


「こんにちはーカノリンでーす。カノリンは素敵な彼女と結婚したいと思ってまーす。」

「おっと、カノリンさんのお相手は女性なんですね?政府はそんなマッチングもするのですね?意外です。」

「弁護士さんに頼んでゴリ押しで私のパートナーとの結婚を認めてもらいました。」

「しかし、それはあまりに不平等ではありませんか?ストレートの方たちは少子化対策庁の監視の元、不自由な交際を強いられているわけです。率直にどうですか?私は政府の方針が間違っていると思います。弁護士にお金を十分に支払える人間だけが自由な恋愛をおくれる恋愛格差。許されないと思いますよ。」

 レポーターは声に微かな怒気を込めて佳乃子に詰め寄る。


「私、特別に男性としての戸籍を手配していただきまして彼女と交際できました。制度不備はともかく、私としては不満のない形です。」

 と、はぐらかす佳乃子。


そうか、夏美さんとカノリンさんは付き合っていたのか。男の名前は弁護士が用意した名前だったのか。悠太はやっと合点がいったのであった。




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