第2話 私はツンデレではありません!!



 「雪子様が2人。僕は一体どこまで幸せなのか?日本国憲法万歳!」

本当に法律さまさまだぜ。


 「悠太。寝言は寝て言ってくれるかしら?私が雪子よ。そこにいるビッチは妹の夏美だから。」

 雪子は夏美に対峙すると毅然と断言した。

「夏美、悠太は譲らないわよ?いくら双子で今まで交代することがあっても今回は交換は断じてないんだからっ。」


「交代って、アイドルの仕事を夏美がやってあげただけじゃん。ふーん。でもね。」

夏美は悠太の方に思わしげな視線を送りながら言う。

「悠太くんは同じ顔だったら、私の方がいいみたいよ?」



二人の喧嘩の中、僕は冷静になって考える。まだ待ち合わせの55分前のはず、なぜあんなに僕を嫌っていたユキコがここにいるんだろうか?と。


 そして、そのまま、その疑問を素朴に口にした。

「待ち合わせまでまだ1時間弱あるけど、二人ともそんなに僕のこと好きなの?」


「ば、バカ。何言っているのよ?あなたが私のファンだって言うから、どのぐらいのものか確認しようと思っただけで……。違うわよぅ。ユータなんて嫌いなんだから。もう知らない!」


「素直じゃないね雪子姉さんはっ。悠太さん、大好きだよ。夏美と一緒にラブホいこ?こんなつまらない女無視してさ。私なら、色々楽しいこと知っているよ?年上のお姉さんの魅力を色々教えてあげれるんだから。」


うーむ、この状況はどうすればいいのか、と悩んでいると、その時だった。


肩をトントンと叩かれる。振り返るとそこには若い、おそらく20代前半の女性の保護観察官がいた。


保護観察官とは男女の仲がうまく行っているか、それとなく監視、もとい、観察し色々とアドバイスをくれるありがたーい男女の恋愛アドバイザーなのだ。

彼らの言葉は法律的に重く、強制執行すら可能な権限がある。


「あのーいいですか?あなた方1回目のデートで問題ありとは思っていました。雪子さんは実は1回目のデートの時も、あなたより前に来ていました。でもデートはうまく行ってないみたいだから心配してたんです。いいでしょう、この際2人の好きな方を選びなさい。上手くいく方と結婚すれば良いと思います。」


「え、そんないい加減、いや適当でいいの?いいんですか?助かりますけど。」

「と言うか雪子さん、1回目の時も1時間以上前からいたんですか?」

僕は内心の喜びを抑えきれず、明るい声で話す。


「黙りなさいよ。あなたが変な男だったら百万円払ってでも断ろうと思っていただけよ。別にイケメンでもないあなたの写真を見て早く会いたいなんて思う女がいるわけないじゃないの」

バケツで冷や水を浴びせるように雪子は言う。


そこに保護観察官のお姉さんが割って入る。

「保護観察官は、男女の恋愛がうまくいくようにとりはからうのが優先します。言うなれば細かい決まりより、カップルを実際に成立させることが仕事なんですよ。」

お姉さんはニコリと笑い。

「悠太さんは、ツンデレよりビッチの方がお好きのようですね?なら、気持ちに素直になって夏美さんと一緒になれば良いと思いますよ?』


「ちょっと待ってよ。私はまだ負けを認めてないわ。認めないんだからっ。ビッチに勝る存在があると言うことを次のデートで思い知らせてやるんだからねっ。アイドルを甘く見るんじゃないわよ? くぅ。もう、いいわ。知らないんだからーーー」

そう言うと雪子は顔を真っ赤にして、猛ダッシュでその場を去った。


 そして訪れる静寂。僕は弾んだ声で切り出す。

「では、いざラブホに参りましょう。夏美さん。そして、早く少子化の日本を救いましょう!」

「イェイ。レッツゴー、ホテル!」


保護観察官は頼もしげに夏美の双肩を後ろから見守るのであった。


 だが、雪子は悠太を諦めた訳ではなかった。

「あのビッチに勝つにはどうすればいいのかしら。そうだわ。顧問弁護士に相談しましょう!高い報酬払っているんだしね。見てなさいよ悠太!」

雪子は電話をかける。顧問弁護士に過去の事例を調べてもらって夏美に勝つのだ。

「こんにちは雪子です。そうなの。結婚承諾法のことで悩んでいるの。今すぐ相談させて。うん。すぐ行くわ。」


雪子はタクシーを手を挙げて拾うと顧問弁護士の待つ法律事務所へと急ぐのであった。




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