第3話 彼女の素顔

 「フローラル様、今日第7皇子と会いましたの。本当にどうしようもない女たらしでしたわ」


フローラルは一見朴訥で素直で愛らしい。しかし、それは真の策略家として、人の世の表も裏も知りきった彼女だからこそ、人がしたたかだという印象を与える所作を全て隠し通せるという結果に過ぎない。


フローラルは愛らしく笑い。


「そんなエミリーは本当は皇子さまのことが好きなのね。私にはわかるわよ」

と恋する乙女らしい勘違いをしてる風を装う。


「いえ、エミリーはあんなチャラい男はたとえ皇子でも嫌でございます。」

とエミリーは眉をひそめる。


「エミリー、皇子さまは皇位継承権が7位。油断ならない男であると思われぬように装っているだけの深謀遠慮があなたにはわからぬのかしら。」

とフローラルは受け売りのようにいう。実のところフローラルには皇子が本当に女たらしであることも筒抜けだし、深謀遠慮なんて言うものはなく、ただお気楽に過ごしたいだけの皇子の堕落した根性も見抜いている。


「だからこそ、私は彼を人生のパートナーに選ぶわ」

そのようなだらしのない性根の座っていない男だからこそ、フローラルの夫にふさわしい。

「意思の強い者に、人は従うもの。私も花嫁として彼に尽くしたい。」


「まぁ、フローラルお嬢様こそが皇子様を好きなのね?」

とエミリーはからかう。


実のところ、フローラルは皇子の利用価値が好きだった。意思の強いフローラルにミカエルは振り回されることになるのは、彼女にとって自明だった。そう結婚相手は皇子でかつ、意思の弱い者に限る、と心に決めていた。金で貴族の娘の地位を買ったその日から下調べをし、ミカエルにターゲットを絞り、彼の理想の女を演じきった。


「エミリー、結婚は人生の墓場というけど、あなたはどう思う。私は人生の真の旅立ちだと思うのよ。ゴールではなくスタートということよ。」


そう、フローラルという貴族の娘の地位を騙る詐欺師は、女でありながら権力と金の全てを得るため皇国を今乗っ取ろうというスタート地点にたたんと、計略をめぐらしているのだ。


「フローラルさまはミカエルさまと人生を楽しく過ごすスタートになる結婚をされたいのですね。」


エミリーは内心思っているに違いない、結婚に夢しか見ないこの世間知らずの貴族の娘が、と。だが違う、フローラルは決して貴族の娘ではないし世間知らずではない。


皇子よ。その性根、叩き直してくれよう。とフローラルは含み笑いをする。

その笑いは第三者には優しい笑みに見えることだろう。












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