第4
「やあ、少し遅れましたかね。僕が最後ですか、すみません」
「貴方は時間通りよ、ウォレス・グロッケンスピール」
「ワシらが早く来ていたのだ」
「僕に黙って秘密の会合?」
「人聞きの悪い。そうだとして、貴方が不快になる以外に何か問題が?」
「滅相もない、薔薇の魔女。悪だくみ大いにけっこうです」
「断じて悪だくみではない!」
「ブーゴイ司令、僕は口が悪いもんですから、失礼しました。この通りです」
「……そろそろ、始めていいか」
「「「どうぞ」」」
「総官からの通達はない。後期日程が始まるに際し、それぞれの現状報告を」
「じゃ、遅く来た僕から。概ね順調。すでに脱落者が何名か出てますが、都市の整備が行き届くにつれ、志願者は増えて行くでしょう。おそらく再来年度からガンと跳ね上がる。何度も言ってますが、施設の拡充が必要です」
「具体案はあるか?」
「ありますが、抜本的再編を考慮していいのなら、ブーゴイ司令とオルガ女史とも協議したいと思います」
「進めてくれ。次」
「機動部からの報告だ。依然、郊外での戦闘が多忙を極める。そちらに人員を割いてるため、市街地の犯罪対策は手薄になっている。ただな、軍事経験者が必ずしも市街で有利とは限らんのだ。のう、ウォレス」
「あー、はい。多分、ブーゴイさんが考えてるのは、少数精鋭の小回りが利く部隊が必要ってことですよね」
「超高度通信網を持った戦闘型個人部隊だ」
「部隊とはもはや呼べないシロモノですが、連携もスタンドプレイも即時に切り替え対応できるのが、理想だそうです」
「どう思う、オルガ」
「魔導に携わる者は常に孤独です。それこそが至高。徒党を組むより、組織を上手く使って、個人の能力を発揮させると考えれば、理にかなっている。それに……そうでなければ、自由に暴れ回る獣魔を凌駕することは、ますます困難になるでしょう」
「根拠があるかね」
「言えることは、獣魔はこれからもっと強く、厄介なものが現れます」
「君を信じよう。報告はあるかね」
「ありません。例の話を」
「人事に関することで、魔導審議官であるオルガから要望が出ている。魔導の素質のある者は少ないため、優先的に人材を回してほしいそうだ」
「すでにオルガ女史の所には、魔導の素質のある生徒しか預けてませんよ」
「ウォレス、貴方は全ての子羊たちを私に目通しさせてはくれていないわ」
「だって、大変でしょ?」
「素質があっても、本人にその意志のない場合、私の元には送っていない、そうじゃないかしら」
「魔導が嫌いで上達するとは思えナイ」
「魔導はね、素質が全てなのですよ。そして魔力に通じる者は、魔に囚われ惹かれる心を持っているものなのです」
「副総官は賛成なんですか」
「そうだ。魔技は戦力として特異である他に結界、防護服、伝承の武具の実現化において、有用だ。にも関わらず、素養を持つ者はあまりに少ない、技術の継承者を確保するのは急務だと思うが」
「わかりました。改めて、全員の特性値を出して、データをお渡しします」
「ええ、でもその前に、一人目星を付けてる子がいるのです。ブーゴイ司令官」
「ぬ。ワシんとこの若いもんか」
「イバラ。大陸出身だそうですね」
「そうだ。大陸ではまだ戦争が続いている、その基地からウォレスがスカウトして来た」
「軍事経験があるんだ、ブーゴイさんとこが適任だろうと思ってね、それに、彼女は同じ基地の仲間とここに来た。つまり二人はバディみたいなものだ」
「魔導を心得ては、つがうのは不可能ですか?」
「言・い・か・た」
「市内で部隊よりも個人の戦闘力を重視していくのなら、異能力同士の組み合わせの方がより理想的ではないかしら」
「なるほどのう、しかしワシとしては、本人たちの意向は汲んでやりたい所だ。貴公にも協力するが、まずは自分からイバラに話をさせてもらおう」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ワシからも人事について、頼みがある。第一期生の中から、現場に出したい者がいる、構わんか?」
「ウォレス、どう判断する?」
「最低でも一年の研修と思ってましたが、そうですね、ちなみに誰ですか」
「八神栄だ。郊外の戦闘なら、寮生のトーマス・クレイも出していいと考えている」
「ブーゴイさんが責任持って見てくれるんでしょうね?」
「そうなるな」
「郊外野戦には、すでに人員を割いてますから、力を入れたいのは市街戦です。本入局前のクレイはまだ早い。八神くんの市街実地は今後、他の生徒の参考にもなるでしょう、賛成です。ただひとつ、彼女は総官の肝入りだ、ご意見を伺った方がいいですか?」
「問題ない。総官は我々に一任されている。では、そのように。各々の判断に委ねるものとする、報告は事後で構わないが怠るな。他になければ……」
「では、以上をもって散会とする」
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