第2

「そこをどけ? ボロ雑巾」


「……通路ならいっぱい空いてる」


「そうでない、視界に入るなと言っている」


「われらの視界に入るな、ボロ雑巾」


「その汚い御髪おぐしで床を拭いているのか?」


「さっさと動け、はんぱも……」


「ああっとおー!! 足が長いから当たっちゃったあーっ!」


「「「ぶべらっっっ」」」


「……トム」


「きっさま、トーマス・クレイッ!!」


「なんだよ、彼女は昼めし食おうとしてるだけじゃないか」


「そこに直れ! 狐がっ」


「そうだ狐がっ」


「げ。なんで知ってんの? いやらしい〜。オレの属種、そうやって言いふらさないでくれる?」


「私、お腹空いたから」


「あ、ちょっと!? 三対一になっちゃうよ、オレ! 行くのマジで!?」


「見捨てられたな、ざまーないフハハ」


「いやそれおかしいでしょ、イジメる相手がいなくなっちゃったんだから、もうやめようぜ」


「そうは行くかっ」


「なんでだよ」


「我らを足蹴あしげにしただろーが!!」


「あ。覚えてた? 参ったなどーも、属種知ってんなら話しが早いや、無敵だってことも知ってるよね。知らない? じゃあ、試してみる?」


「なにを、我らはっ」


「狐、狐って、童話に出てくるひきょうモンみたいにさあ、二尾にびの神獣類だっての。あんたら魔導課程だろ、この辺りが木っ端微塵にならないよう、防いでみてよ」


「ひっ、待て、待てっ!」







「ぃよう、ボロ雑巾」


「もぐもぐ」


「置いてくかフツー、あの場面で。ついてはですね、お詫びと謝礼を兼ねて今度一緒に食事しない?」


「トム、手を握られると食事が進まないのだけど」


「OKの返事を聞くまで、この手は」


「彼女のいる人に言われても困る」


「だから彼女じゃないっつーのー!! なんだよ、ローラまで。あいつは妹、兄弟みたいなもんだって何回説明すればいいの? 女の子たちみんなオレのことそう思ってんの!?」


「イバラが泣くわ」


「だから!」


「トームー。あ、ローラ」


「こんにちは、イバラ」


「トム、借りてっていい?」


「もちろん」


「オレまだ行くって言ってないよ? ちょっとイバラ!?」


「え、来ないの?」


「行きます。……なー、イバラ。てかさ、ローラと話してて、まだ返事もらってなくてさ、それだけじゃなくて、食堂に来たのはさ、オレも人探してて」


「あとでまた来ればいいじゃん、ほら、もうちょっと急いで歩いてよ」


「出直すほど切羽詰まってないっていうか」


「なんなの?」


「なんなんでしょーね」


「ヘンなトム」


「お兄ちゃんはお前が一番大事だって話だよ」


「それは、ありがとう」


「お、仲良いなイバラ、トム」


「あ、八神」


「ぎゃあ。聞いてた? 今の聞いてた?」


「何をだよ、トム。聞かれたくないことでも話してたのか? 場所を選べよ」


「いやいや、八神ちゃんが何も聞いてないならいい、いいんだ」


「愛されてんな、イバラ」


「まーねー」


「がっつりはっきり聞いてんじゃんっっ」


「隠すことじゃないだろ」


「もうやめて。ほら、行くぞイバラ、どっち?」


「ああ、こっち」


「二人とも、ローラ見なかった?」


「食堂にいたわ」


「そっか、ありがと」


「!八神ちゃん、オレもローラに聞こうと思ってたんだ。本当はローラに聞く前に、お前に」


「ん。……わかった、代わりに聞いておく」


「よろしく、また後でな」


「おう」




「トム、八神と何の話し?」


「今朝、後期の日程が貼り出されたろ、その中にローラの名前がなかった」


「え、学期途中で落第?」


「そんなこと今までなかったんだよ」


「おかしいね」


「あいつのことだから、まだ見てないんだろうな。八神は気づいたみたいだけど」


「どこにも名前がないのに、なんで食堂にいたんだろ」


「いたから、辞めてないって、安心したんだけど……、オレも不思議」


「八神がなんとかするでしょ?」


「ていうか、お前の用事はなんなの?」


「ブーゴイ司令に呼ばれたから、一緒に来て」


「はぁ? 一人で行けよ。オレついてってどうすんの、話が終わるまで待ってろっての?」


「そう、なんとなく不安だから」


「イバラさん?」


「あたしのいやな予感ってよく当たるの」




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