第2話 デビル・ゴットマザー
「なっ……何を言うか、貴様っ!」
かっと一つ目を見開き、サイクロプスが真っ赤になって怒鳴ります。
「デビル・ゴットマザーは、先代様の死の原因だぞ! そいつを……」
「おい!」
ミノタウロスの制止に、はっとしてサイクロプスが口元を覆いました。魔王様を見ると、頬に涙の跡をつけたまま、あんぐりと口を開けていました。
「死の原因って……。皆、パパは、病死だって……」
気まずい沈黙が広がりました。
申し訳なさそうに、ヴァンパイアが立ち上がって魔王様の肩に手を起きました。
「申し訳ございません、魔王様。先代様の名誉のために、我々が秘密にしていたのです」
「殺されたの……? 仲間に?」
こわごわと尋ねる魔王さまに、皆気まずそうに目をそらしました。
「殺されたわけではありません。ただ……そのぅ、原因にはなった、と言いますか……」
ヴァンパイアが答えてくれましたが、妙な空気です。
気を取り直すように、ミノタウロスが咳払いをしました。
「確かに、ゴットマザーなら、強い魔法が使える。加えて、奴の一族の手を借りれば、兵力差も埋まるだろう」
納得できるところがあったのでしょう、サイクロプスが悔しそうに唸りました。魔王様は涙を拭うと、興味深そうにヴァンパイアを見上げました。
「そんなに一族に兵士が? ゴットマザーって、何者?!」
「お会いになってみますか」
ヴァンパイアの提案に、複雑な表情で魔王様は少し考えたあと、こくりと頷きました。
「デビル・ゴットマザーは悪魔の一族の長で、先代様の右腕でした。不死身の悪魔で、先代様に次ぐ高度な魔法の使い手です」
四天王のうちの三人と、魔王様は、連れ立ってお城の地下牢へ歩を進めていました。
先頭のヴァンパイアが蝋燭を持ち、じめじめした地下牢へつながる石階段を降りていきます。
魔王様は珍しく真剣な表情で、ヴァンパイアの背中を見つめて問いかけました。
「さっきの続きだけど。なんで……パパは死んだんだ?」
「……知りたいですか。先代様がお亡くなりになるまで、ずっと、離婚したお母様のお城にいらしたのに?」
「いちいち解説すんなよ」
うるさそうに顔をしかめ、魔王様は言いました。
「あんまり繋がりはなくても、やっぱ親だし。どんな最期でも、そりゃあ……知りたいよ」
階段を降りきった一同は、厳重に施錠された扉の前へたどり着きました。ガチャガチャと音を立てて鍵を開けながら、ヴァンパイアは沈黙の末に、言いました。
「一言で言えば……ゴットマザーは、先代様の愛人でした」
「えっ、そこから教えちゃう?」
ミノタウロスの驚きの声に対し、魔王様は目を見開いたまま無言になっています。最後尾のサイクロプスが、気の毒そうに目を伏せました。
振り向いたヴァンパイアが、嫌そうにミノタウロスをにらみつけます。
「僕だって教えたくはないが、魔王様が知りたいなら伝えねばなるまい。そもそもの原因はここからなのだから」
「……それって、痴情のもつれ、とか? だんだん仲が冷え切って、喧嘩で……?」
「いえ……仲はよろしゅうございました。良すぎたのです」
軋む音を立てて、ヴァンパイアは扉を開きます。彼の言葉に疑問を持ちながらも、鉄格子の部屋が両脇に連なっている空間に気を取られ、魔王様は口を閉じました。
右側の真ん中の鉄格子へ進み、ヴァンパイアは蝋燭をかざします。
「こちらが、デビル・ゴットマザーの牢です」
薄暗い牢の中を、魔王様は覗き込みました。中には、牢屋には似合わない、豪奢なベッドが置いてあります。その上には、横たわる人影が見えるのですが……。
「……ねぇ」
「なんです?」
「ゴットマザーの、牢屋なんだよな」
「そうです」
もう一度、マザー、の発音に力を込めて、魔王様は確認しました。
「ゴットマザーなんだよな」
「そうですってば」
目を精一杯凝らし、魔王様はおそるおそる口を開きました。
「ベッドで寝てるの、男に見えるんだけど」
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