第94話 救出 Ⅲ
「ブモッ!」
オークが断末魔の声をあげ倒れる。
その光景を見て俺は武器の『実体化』を解除した。
「よしこのくらいでいいだろう」
「もういいの?」
「ああ、十分レベルも上がったしそろそろここを出ないとな」
朝から俺達は魔国の森の中で狩りをしていた。
というのも四強と対峙するにあたって圧倒的に力が足りないためである。
俺は魔物化の影響でレベルもステータスも全体的に下がってしまった。
そんな俺が何もせず四強と対峙して勝てるだろうか?
答えは否、勝てる可能性などほぼないに等しい。
なのでこうして狩りをしてレベルを上げていたわけだ。
「一応最後にもう一度確認しておくか」
俺は目の前にステータスを表示させる。
------------------------------------
名前: カズヤ
種族:
職業: 魔王
Lv.43
HP : 10500/10500
MP : 6300/6300
ATK : 923
DEF : ∞(スキル補正)
MATK: 645
MDEF: 932
DEX : 832
SP : 420
スキル:『実体化』、『物理攻撃無効』、『メテオ(笑)』、『集中』、『夜目』、『解除』、『成長速度倍加』、『憑依』
称号 : 『車に轢かれちゃった系男子』、『異世界の幽霊』、『流石にあの攻撃はエグいでしょ』、『ゴブリンを殲滅せし者』、『下級竜スレイヤー』、『魔王の素質』、『虐殺の王』
------------------------------------
ステータスは以前より上がりやすくなっている。
そのため今のレベルで以前と同じくらいのステータスを取り戻すことが出来た。
とにかくこれなら四強を相手にすることくらいは出来るだろう。
「お主らもう行くのかね?」
声のした方を向くと、そこにはサタンがいた。
「あんたはここにいても大丈夫なのか? ここは魔物が出るぞ?」
「わしも舐められたもんじゃのう。そんな心配は不要じゃ、仮にもわしは魔王と言われてもおるからのう。ここらの魔物くらいで手こずったりはしないわい」
「そうか、悪いこと聞いたな」
「まぁ気にせんでよい。それよりもこれを着て行くのじゃ」
サタンは黒い布のようなものを俺達へと差し出す。
「それは?」
「これは外套じゃよ。その姿のままじゃと何かと不便じゃろ?」
俺がその黒い布のようなものを受け取るとそれはサタンの言っていた通り二人分の外套だった。
「何から何までありがとうな。じゃあ俺達は行くよ」
「お主ら無事に帰ってくるんじゃぞ」
「任せておけ」
そして俺達は仲間救出のためカタストロへと向かった。
◆◆◆◆◆◆
カタストロの門の前には多くの資材が積まれている。
そこにはいつも立っている門番はおらず大工のような人が積まれている資材を担ぎ上げ門を頻繁に往き来していた。
「おーい、そこの木の板をこっちに持ってきてくれ!」
「まだ運びこまれてねぇのか!」
半壊してしまったのは昨日だったにも関わらずもう復興が始まっているようだ。
俺はその光景を見て申し訳無さを感じていた。
無意識とはいえこの原因を作ったのは俺なのだ。
「和哉、そんなに自分を責めちゃダメだよ。今はあの三人を助けることだけ考えよう」
「そうだな……」
それから俺達は門番がいないことをいいことにすんなりと町の中へと侵入する。
町に入ってしばらく大通りを歩き、あるところで路地裏へと入った。
「これで無事町の中に入れたわけだが魔王によると三人は冒険者ギルドの地下に捕まっているはずだ」
「冒険者ギルドに地下なんてあったのね」
「そうだな、あの町だけかと思ってたんだがそうでもないらしい」
「正面から行くってことでいいの?」
「いや、とりあえず俺が様子を見てくるからあかりはここで待機していてくれ」
「様子を見るってどう見る気なの? 今は『実体化』を解除しても完全に消えるわけじゃないんでしょ?」
「確かに魔物化したせいで『実体化』で完全には消えることは出来なくなったんだがその代わりに新しく『憑依』ってやつを覚えていてな。そいつを使えばなんとかなりそうなんだ」
「『憑依』って言葉の通りなら相手の体を乗っ取れるとか?」
「まぁそんな感じだな。まぁ終わったらすぐに戻るよ」
俺は大通りを観察し、冒険者っぽい男が通りかかった瞬間『憑依』を発動させた。
目の前が真っ白になり前が見えなくなるがそれは一瞬のことですぐに視界が回復する。
それから自分の体を見下ろすと先ほど『憑依』を使った冒険者っぽい男のものになっていた。
「そうか、これが『憑依』か。なんだか他人の体を動かすのは違和感を覚えるな」
それはそうとこれで無事『憑依』が出来たわけだ。
俺は成功した旨を伝えるためあかりがいる路地裏へと顔を向け、一つ大きく頷く。
その後すぐに冒険者ギルドへ急いだ。
◆◆◆◆◆◆
冒険者ギルドの看板を見つけ、走っていた俺は息を整えるように徐々に歩きへと切り替える。
──大丈夫だろうか。
俺は『憑依』したことが周りにバレてしまわないか不安になっていた。
これが最初の『憑依』、否が応でも不安はつきまとう。
「入る前に深呼吸でもしておこう」
不安を取り払うように深く深呼吸をする。
すると今まで感じていた不安が少し和らいだような気がした。
そうこうしているうちにギルドの扉の前までたどり着く。
「よし、俺はこの人になりきる、なりきる、なりきる」
暗示と共に俺はギルドの扉を開ける。
「いらっしゃいませ!」
冒険者ギルドの中は外の慌ただしい様子とは反対に静まりかえっていた。
というのもギルド内にいる人が二、三人と極端に少ないのだ。
そんなギルド内の様子を不思議がっていたためか俺は受付嬢に話しかけられた。
「あの、どうかなさったんですか?」
「いや何でもない、地下の広場を使いたいんだが今大丈夫か?」
「申し訳ありません。いつもは解放しているのですがただいま封鎖しておりまして使えない状態となっております」
「そうか封鎖か」
これも三人が捕まっているからであろうか。
しかしここまで来て戻るに戻れない。
「なぁなんとかならないのか?」
「なんとかと言われましても……!?」
俺は受付嬢と目を合わせた瞬間に『憑依』を発動させる。
再び目の前が真っ白になり気づいたときには目の前に元々俺が『憑依』していた冒険者っぽい男が倒れていた。
「どうやら『憑依』中であっても他の人に『憑依』出来るみたいだな」
俺は先ほどまで『憑依』していた冒険者っぽい男をギルド内にある椅子に座らせ、地下の広場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます