第95話 救出 Ⅳ
俺は地下の広場へと向かうため暗い中一つのランプを手に持ち階段を下っていた。
足元には灯りとなるランプがずらっと下まで並んでいるが今は閉鎖中のためか灯りは一つもついていない。
「そういえば『憑依』には制限時間があるんだよな」
そう、今俺が使っている『憑依』には実は制限時間なるものがある。
『憑依』・・・相手に憑依することが出来るが一定時間で強制的に解除されてしまう。
このようにスキルの説明文にも書いてあるが一定時間で 『憑依』が解除されてしまう。
これでは肝心なときに解除されてしまうかもしれない。
なので今は急いで三人の様子を確認しなければならないのだ。
「そろそろ広場に着くな」
長い階段を下り続けるとようやく広場へとつながる扉が見えた。
俺はやっと見えたゴールに早足で向かう。
「一応鍵を持ってきたが開いているみたいだな……」
軽く扉を押してみるとどうやら鍵は開いていたようで、すんなりと扉が開いた。
それから慎重に扉を開きつつ中の様子を伺う。
「本当にここにいるのか?」
扉の先にある広場も階段と同様に灯りがなくどこまでも暗闇が広がっていた。
そんな三人が居そうにもないこの光景に俺は疑問を覚える。
だが魔王の話によるとここに三人はいるはずなのだ。
「一先ず探してみるか」
俺は範囲を前方に、距離を一キロで設定して『探知』を発動させた。
この距離だったら副作用も発生しないだろう。
『探知』で得た情報が徐々に頭のなかには入ってくる。
土、金属、魔力と空間の情報が頭の中に入ってくるが情報の中に仲間三人の情報がない。
そして三人の情報がないまま『探知』が終了してしまった。
「あれ? おかしいな」
「何がおかしいんだ?」
俺の独り言に返事をする者がいた。
声がした後ろに振り返るとそこには質素な皮鎧を身につけた身軽そうな冒険者らしき男がランプを手に持ち立っていた。
「い、いえ何でもありませんよ」
俺は慌てて『憑依』している受付嬢の話し方を真似て話す。
そうしなければ当然だが怪しまれてしまう。
「そうか、ところで君は何でこんなところに?」
どうやら無事に怪しまれずに済んだようだ。
だが今度は俺にここにいる理由を聞いてきた。
封鎖中なのだから当然なのかもしれない。
「はい、私は扉の施錠を確認しておりまして今確認し終わったところです。では仕事に戻りますので」
この場からいち早く離れようと入ってきた扉に手をかけ階段を上がろうとする。
だがそこで男に呼び止められてしまった。
「ちょっと待ってくれ!」
「はい?」
もしかしてバレたのだろうか?
だが今の行動に不審な点はないはず。
俺は恐る恐る男の方へと顔を向ける。
「少しこっちに来てくれないか?」
その言葉に従い大人しく男の近くまで歩く。
「ちょっと貸してほしい」
男は俺に向かって手を差し出してきた。
なんだろうかこの手は……それに貸してほしいって何を?
言われていることが何か分からず困っていると突然すっと左手が軽くなった。
「貸してほしいと言ったのはランプのことなんだ。分かりにくくてすまないね」
男は元々俺が持っていたランプを右手で持つと代わりに左手に持っていた自分のランプを俺に渡してくる。
「そっちのランプが消えかかっていたからね。今から階段を上るっていうのに消えたら危ないだろう」
どうやら男はランプのことが気になっていただけらしい。
正体がバレていないようで良かった。
「ありがとうございます」
「いいさ、君が怪我をしなければね。暗いから気をつけるんだよ」
それから俺は男に一つ礼をし、再び扉へ向かう。
今度は呼び止められることもなく俺は無事この場を脱出することに成功した。
◆◆◆◆◆◆
「で、どうだったの?」
「それなんだがギルドの地下にある広場には誰もいなかったよ」
俺は再び例の路地裏へと戻ってきていた。
現在あかりにギルドで見てきたものを報告している最中である。
「そうなんだね。だったら一体どこにいるんだろうね」
「それが分かれば苦労しないんだが……」
俺とあかりの間にしばし沈黙が生まれる。
これで三人の行方の手がかりが全てなくなってしまったのだ。
それに加えて唯一俺達にとっての安心だった三人の安否すらも不明になってしまった。
手当たり次第探したいが今の俺達では自由に行動できない。
そんな手詰まり状態に為す術もなく立ち尽くしていたときだ。
表の大通りがやけに騒がしくなっていた。
「おい、広場でこの町を滅茶苦茶にした魔王の仲間が張りつけにされているらしいぜ? 見に行って見ないか?」
「そんなの勘弁だね。顔も見たくないよ」
「そうかい、じゃあ一人で行ってくるよ」
耳を澄ませるとそのような会話が聞こえてくる。
俺はすぐ横にいるあかりへと顔を向けた。
「これってもしかして三人のことなんじゃ……」
「可能性は高いね。でも広場って人目につきやすいんじゃないかな?」
「そうも言っていられないだろ。俺は行くからな、もし心配だったらあかりはここに残っててもいいぞ」
俺がそのまま大通りに出ようとするとあかりに外套を捕まれる。
捕まれた方を向くとあかりは必死の形相で俺を見ていた。
「待って、私も行くから! それに心配なのは和哉の方だからね」
「わ、分かったから外套を掴むのを止めてくれ」
「本当に分かってるの? あの三人がどうしてあのとき残って戦ったかを」
「ああ、俺を助けるためだろ?」
「そう、助けるため。それなのに肝心の和哉が捕まったら三人の努力は無駄になるんだよ? もっと慎重に行動してよね」
どうやらあかりは俺が何かしでかさないか心配だったようだ。
あかりの気持ちも分かるが俺は……。
「そうだな気をつけるよ」
「その言葉信じていいんだね?」
俺はその言葉に頷くことが出来なかった。
三人の状態によってはすぐにでも飛び出してしまうかもしれない、そんな心配が俺の心の中には存在していたのだ。
何も答えない俺を見て、あかりは深くため息を吐く。
「分かった。もしものときは私が何とかする」
「なんとかってどうする気なんだ……」
「和哉には関係ないよ。ほら広場に急ごうよ」
あかりはそれ以外何も答えることなく先に一人で大通りへと出てしまう。
俺はあかりの急な態度の変化に違和感を覚えながらあかりのあとをついていった。
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