第93話 救出 Ⅱ


「さて、わしが何で外にいたかじゃが、それはお主がそろそろ来る頃だろうと思っておったからじゃ」


 サタンはテーブルに置いてあるカップを手に持ち中身を啜る。

 俺とあかりは再び魔王の部屋へと来ていた。


「そろそろ来る頃ってまるで俺達があんたのところに行くことが分かってたみたいな口振りだな」


「まぁそうじゃのう。分かっておったよ。気づかなかったかもしれんがお主らに『監視』の魔法をかけておいたんじゃ。お主らのことが心配じゃったからな。それに久々に人間の町というものも見てみたかったしのう」


「じゃあ俺達に起こったことも全部見てたのか?」


「ああ、見ておったよ。町のやつらに追われているところ、もちろんお主が暴走するところもな」


「それだったら三人の様子も見てたよな? 今あの三人は無事なのか!?」


 三人にも『監視』の魔法がついていると知って俺はいてもたってもいられずサタンに詰め寄る。


「少し落ち着け。大丈夫じゃ心配しているお仲間は全員無事じゃよ。そうじゃのう見ていたところ冒険者ギルドの地下に連れていかれたようじゃ」


 そうか、三人が無事で一先ずは安心した。

 そうと分かれば他に聞いておきたいことがある。


「他にも聞いていいか? 何で俺にあんなことが起こったんだ? あんたは俺がこれ以上魔力を溜め続けると危険だとか言ってたよな?」


「確かに言ったのう。じゃがその話をする前に一つ聞いておきたいことがあるのじゃ。お主の正体はなんなのじゃ? それを知らないことにはどうにも出来ないのう」


「そういえば俺の種族を言ってなかったな。俺の種族は幽霊だよ」


「ほう、幽霊。それは人間が死んだらなると言われておるもので良いのかのう?」


「そうだが」


「なるほどそういうことじゃったのか。大体分かったわい」


「何が分かったっていうんだ?」


「それはなお主が魔物化してしまったってことじゃよ」


「魔物化?」


サタンはゆっくりとだが確かに頷く。


「そうじゃ、お主は死霊レイスという魔物は知っておるかね?」


「ああ、知っている。幽霊のような魔物だろ? 冒険者をやっているやつなら大体は知っているんじゃないか?」


「基本的にそうじゃな。じゃが死霊は幽霊と違って知性を持たないんじゃ。そしてその知性を持たない死霊じゃがなその多くは幽霊から生まれるものなんじゃよ」


「幽霊から生まれるって……死霊は死霊で幽霊は幽霊として生まれてくるんじゃないのか?」


「それも少しはあるがのう。多くの死霊は幽霊が魔力を溜め込み続け限界を向かえて変質したものなんじゃ」


「ちょっと待ってくれ……それって何だか今の俺に状況が似てるじゃないか」


「ほう、お主は死霊になったのか?」


「いや、今俺の種族は死霊レイスじゃなくて何故か死霊の王レイス・キングになっている。もしかして俺が知性を失わないのもそのせいなのか?」


「死霊の王か。それはまた特殊なものになったもんじゃのう。死霊の王になるにはかなりの魔力が必要なんじゃよ。それと知性のことだが失わないことはないぞ。現にお主も失っておったではないか」


 サタンの言葉で先ほどの町の光景が頭の中に甦る。

 どうやら俺が気を失っていたあのときがサタンいわく知性を失っていた期間ということらしい。


「でもそれは一時的なものだろ? 今はこうしてまた他の人と話も出来る」


「そうじゃな、その通りじゃ。普通は知性を失ったらそのままなんじゃが、稀に戻ることもある。今は魔力も分相応になって安定しているみたいじゃし今後暴走することはないじゃろうな。本当にラッキーじゃったな」


 そうかそれなら安心した。


「話は変わるんだが俺達がここに来たのは今の話を聞くためともう一つあるんだ」


「あれかの? 四強についてかのう?」


「そうそう、何で分かったんだ? ってずっと様子を見てたのか」


「それで何を聞きたいんじゃ?」


「とりあえずは四強がどんなやつかと攻撃手段が聞きたいな」


「そうじゃな……」


 サタンは四強について思い出しているのかしばらくウンウンと唸っていたが結局分からなかったようで……。


「ダメじゃ。思い出せん。そうじゃこういうときはやつに聞いてみようかのう」


 席を立ち、どこかへと姿を消してしまう。

 それから数分、一人の少女を伴って戻ってきた。


「待たせて悪かったのう。ほら、挨拶するんじゃ」


「はじめまして……いやお久しぶりと言った方がよいのかのう? 妾はアリシア、吸血鬼をやっている者じゃよ」


 サタンについて来たのはあかり達の件に関わっていた人物、それにあかりを吸血鬼にした張本人である吸血少女だった。


「おや? 隣にいるのは妾の眷属ではないか」


 アリシアは俺の隣に座っているあかりを見つけると少し驚いた表情をする。


「そうか、正気に戻ったのじゃな」


 あかりは初めて会った少女に突然話しかけられて混乱している様子だった。

 なので俺はあかりの耳元で状況を説明する。


「そういえば言ってなかったな。コイツがお前を吸血鬼にしたやつだ」


 あかりは一瞬驚いた表情をするが、既に終わったことだからか何か言うでもなくすぐに表情をもとに戻した。

 特に憎しみなどの負の感情は持っていないようだ。


「さっそくだが本題だ、アリシア。お前には四強のことについて聞きたい」


 アリシアは一度サタンへと顔を向け、それから俺へと視線を移した。


「それは魔王様の頼みかのう?」


 アリシアの問いにサタンはすぐに返事をする。


「そうじゃ、頼むぞアリシア」


「そういうことなら仕方ないのぉ、おぬしの聞きたいことはなんじゃ?」


「俺が聞きたいのは四強の性格と攻撃手段だ」


「よかろう、妾が知っている限りのことを教えると誓おう。では失礼して」


 アリシアはそう言うとサタンと共に俺達が座っている向かい側へと座った。


「何から話そうかのう。まずはおぬしらが戦ったシエンからかのう……」


 こうしてアリシアによる四強の説明が始まった。


 四強のことを簡単にまとめると……。


 俺達が戦ったシエンはいけ好かない野郎で主に細身の剣を好んで使う。

 次にガタクというやつは頭が固い男でリーネと同じ拳を使った攻撃をしてくる。

 カイラというやつは考えていることがよく分からない女で主に魔法を使ってくる。

 最後にタレンというやつは常識人で短剣を使ったトリッキーな攻撃をしてくる。


 という感じだ。


 四人誰もが一筋縄でいきそうにない相手だと聞いていて思った。

 それでも越えていかなければ三人を助けることは出来ない。


「……以上じゃがこれで良いかのう?」


「ああ、ありがとう」


「では妾はこれで失礼する」


 アリシアは話終わるとすぐに席を立ち俺とあかりの前から姿を消した。


「さて用事も終わったじゃろう。わしはもう休むがお主らも今日はここに泊まっていくがよい。明日にならんと何も出来んじゃろ?」


「それもそうだな。じゃあお言葉に甘えて」


 こうして俺とあかりは魔王の部屋に泊まることになった。

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