第79話 カタストロへ Ⅱ
ソフィーの回復魔法が使われてからというもの一日の走行距離は以前と比べて格段に長くなった。
これぞ魔法の力。
やはり魔法は偉大だった。
村を出てから三日経過し、既に山を三つ越えている。
しかしいくら馬を休みなく走らせることが出来ると言っても食事は必要なのでその分の時間はとられるが回復魔法を使う前と比べたら微々たるものだ。
そして重要なことが一つ、それはあと目的の町まで目の前の森を抜けるだけということだ。
こんなに早くここまでつけるとは思っていなかった。
これも馬とソフィーの頑張りのおかげかもしれない。
いや馬とソフィーのおかげだろう。
「今日はこの森の手前で休むか。暗い森の中馬車を走らせるっていうのも危険だし、ソフィーも疲れただろ」
「ずっと回復魔法使いっぱなしじゃ、さすがの私もキツイわよ」
この方法は速いには速いんだがいかんせんソフィーに負担が偏ってしまう。
あかりも回復魔法を使えるには使えるんだが昼間だとどうしても辛いらしく日が出ている間は馬車の中で
そんな状態のあかりに回復魔法を使えとも言いづらく、結果的にソフィーの負担が大きくなるというわけだ。
一日目はなんとか持ったものの、二日目、三日目になるにつれて段々と回復魔法を発動出来る回数が落ちていき、四日目の今日ついにこの有り様になってしまった。
「ソフィー今日はありがとうな、今はゆっくり休んでくれ。野営の準備は四人でやっておくから」
「言われなくてもそうするわよ」
ソフィーはその言葉を最後に馬車の荷台の上ですぐに横になり寝息を立て始めた。
「相当きてたんだな……」
俺はこの四日間のソフィーの頑張りに敬意を表すため、馬車の方向へと敬礼をする。
「何やってるの、和哉?」
ソフィーと入れ替わりで馬車から出てきたのは日が沈んで元気を取り戻したあかりだ。
「いや、なんでもない。それよりももう体調は大丈夫なのか?」
「日が沈んだら途端に良くなったよ。心配かけたね」
「今から野営の準備をするんだけど鈴音とリーネも呼んでくれないか?」
「分かったよ。リンちゃんとリーネちゃんを呼べばいいんだよね」
あかりは二人を呼ぶため再び馬車の中へと戻る。
「よし、俺は枯れ枝でも探しに行くか」
◆◆◆◆◆◆
周りには先が見えない広大な森がこれでもかというぐらい広がっている。
少し歩けば枯れ枝など簡単に見つかるだろう。
初めはそんな気持ちだった。
だが探しても探しても一向に枯れ枝は見つからない。
それどころか……。
「迷った……」
そう、迷っていた。
情けないことに枯れ枝探しに夢中になるあまり自分がどこから来たのか分からなくなっていたのだ。
夜の森で行動する危険さを分かっているつもりではあったがまだまだ未熟だったようだ。
「これはもうあれを使うしかないのか……」
あれとは『探知』のことだ。
『探知』を使えば周りの情報が手に取るように分かるのだが無謀な『探知』は激しい頭痛をスキル使用者にプレゼントする。
なので自分がどこに分からないこの状況の中では『探知』を使いたくない。
もうあの痛みはトラウマなのだ。
「まぁこれは最終手段としてとっておこう。別に今すぐ使わないといけないってことはないしな」
まずはスキルに頼らず自分の力だけで戻ってみるか。
そう結論付けて夜の森の中をさまよう覚悟をしたそのとき……。
「「「ウオォォン!」」」
周りからいくつもの獣っぽい鳴き声が聞こえた。
「オオカミか?」
ここは森の中であり、なおかつ夜だ。
だから魔物の鳴き声が聞こえたところで珍しくともなんともない。
しかし俺は何故だか分からないがその鳴き声のする方へと吸い寄せられてしまった。
一歩一歩近づく度に聞こえてくる鳴き声は大きくなる。
「ウオォォォォン!!」
すぐ先から鳴き声が聞こえる位置まで来たとき一際大きな鳴き声が辺り一帯に響き渡った。
「一体何が起こってるんだ?」
俺の中の謎の好奇心がどんどん俺を前へ前へと進めさせる。
前へ前へと進んでいき気づくとそこは灰色オオカミの集団の目の前だった。
「ウゥゥッ!」
「これはやっちまったな」
遠くから様子を見るつもりが気づかぬうちにオオカミのすぐ近くへと来てしまっていたようだ。
ここは相手が様子を伺っているうちに退散するに限る。
そういうわけでこの場を後にしようとしたのだが、オオカミ達は既に俺の後ろへと回り込んでいた。
相手の素早い行動に俺は逃げるのを諦める。
「おいおい勘弁してくれよ」
そう俺がぼやいたときだろうか目の前にいるオオカミの隙間から白い何かが倒れているのが見えた。
「ウォオオオン!!」
突如その白い何かが起き上がり大きく吠える。
その大きな鳴き声に俺の近くにいたオオカミは一斉に怯んだ。
オオカミ達の怯んでいる隙がチャンスだと俺はこの場から離れようとしたのだが一つの疑問が俺の足を止めた。
「あの白いのってもしかして同じオオカミか?」
立ち止まりオオカミの集団の方へと視線を向ける。
そこには傷を負いながらも必死に周りのオオカミを威嚇する白いオオカミがいた。
何故同じ仲間であるオオカミの邪魔をするような真似をしているんだろうか。
そんなことをしたら周りにいる仲間と敵対することになる。
もしかして仲間ではないのか?
どちらにしてもこの白いオオカミに勝ち目があるように見えない。
「ウォオオオオン!!」
それでも白いオオカミは必死に吠え続けている。
まるで自分だけに周りにいるオオカミ達の注意を向けさせるように。
とにかく今のうちにここから逃げよう。
あの白いオオカミが他のオオカミ達を引き付けているうちは逃げられるはずだ。
だが俺の体は思考とは反対にさらにオオカミの集団がいる方向へと進んでいた。
魔物は人間に危害を加える存在だ。
魔物同士で潰し合うのは人間にとっていいことじゃないか。
そう思う反面であの白いオオカミはもしかしたら俺を助けようとしているんじゃないのかとも思い始めていたのだ。
「もしそうだったら見捨てられないな」
俺はオオカミの集団に近づきながらパンパンと手を鳴らしてオオカミ達の注意を向けさせる。
「お前らの相手は俺じゃなかったのか? さぁかかってこいよ!」
「アウゥウ!」
「アウウゥウ!!」
安い挑発だったがオオカミ達には効果覿面だった。
次々と俺に向かってオオカミ達が飛びかかって来る。
正直に言えば複数のオオカミ相手にまともに戦う気はない。すばしっこい上に数が多いからな。
ならどうするか? それは……。
「十分に引き付けて……落とす!」
俺はオオカミの集団を自分側に十分に引き付けたところで後ろへと飛び、『メテオ(笑)』を発動する。
「「「アウゥ!?」」」
その不意討ちのような攻撃に多くのオオカミは岩の下敷きとなった。
「アウゥウウ!!!」
生き残ったオオカミも下敷きされた仲間を見てか森の中へと逃げていく。
「なんとか上手くいったな」
一息つきたいところだが油断は出来ない。
まだ白いオオカミが残っている。
いくら助けたとはいえ相手は魔物だ。
油断をしたところで襲われるなんてこともあり得る。
俺は警戒しつつ白いオオカミのいる方向へと顔を向ける。
それと同時にいつ襲われてもいいように心の準備をしていたのだがその準備はまったくもって無駄になってしまった。
既に白いオオカミは自分の役目を終えたかのように地面に倒れていたのだ。
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