第78話 カタストロへ Ⅰ


 夜が明けて次の日の朝、俺達は村を出る準備をしていた。


「じゃあ俺達はもう出るよ」


「そうですか残念です……もっと泊まってくれて良かったんですけど」


「そういうわけにもいかないんだよ。俺達は元々この村の先にあるカタストロっていう大きな町に向かうつもりだったんだ」


 俺が子ども達に次の行き先について教えていると目の前にある家の中から一人の若い女性が出てきた。


「カタストロですか随分と遠いところまで行くんですね」


「あんたは……」


「はい、この度は助けていただきありがとうございます」


 家から出てきた若い女性、その人は俺が昨日助けた五人のうちの一人だった。


「もう歩けるのか?」


「おかげさまで一晩休んだらすっかり元気になりました」


「他の四人も大丈夫なのか?」


「はい、私が目を覚ましたときはまだ他の方は寝ていましたが辛そうにしてなかったので時期に目を覚ますと思います」


「それは良かった。それで今後はどうするつもりなんだ?近近ければ俺達が村まで送って行けるけど」


「その事なんですが私はこの村に残ろうと思っています……と言っても元の村には戻れないのが現実なんですけど」


「戻れないっていうのは」


「実は私がいた村は盗賊に襲撃されたときに壊滅してしまったんです。なのできっと他の四人もきっと私と同じことを言うと思います。あ、ベッドで寝ている四人とは同じ村の出身なんですよ」


 そうかもう行く宛がないのか。

 俺は無駄なことを言ったのかもしれない。


「なんか無神経なこと聞いてすまなかった」


「いえ、私達を救ってもらった恩人にそんな気遣いは必要ありません。それにこの村に残る一番の理由はこの子ども達が心配だからですしね」


 俺達が村を出ていった後、子ども達がちゃんと生活出来るのか少し心配だったのだがこの様子だと大丈夫みたいだ。

 これで心置きなく村を出発出来る。


「あ、そうそう……ぜひこれを使ってくれ」


 俺は小さな袋を若い女性に渡す。


「これってお金じゃないですか。助けてもらった上にこんな大金受け取れません」


「勘違いするな、これは昨日の宿泊費で村に払うものだ。村のために使ってくれ」


「ですが……」


「あんたはこれから村に住むんだろ? お金がなくてどうやって生活していく気だ? 盗賊でもするのか?」


「それは絶対にあり得ません!」


「それなら貰っておけ。生活していくにはある程度纏まったお金が必要になる。ましてや子ども達もたくさんいるだろ? それを元手に何か始めるもよし、周りの環境を整備するもよしだ」


「分かりました。このお金は子ども達のために使います」


「おう、そうしろ。じゃあ俺達はそろそろ行くけど他になんかあるか?」


「あの……」


 そう言って手を上げたのは子ども達のうち俺達が昨日お世話になったヨリックだった。


「どうかしたのか?」


 もしかして昨日件か? お金の件なら勘弁して欲しいが……。


「あの僕たちまだ初めに会ったときのこと謝ってなくて……」


 初めに会ったときのこと? 初めに会ったときは確か盗賊に襲われたときか。


「あのときのことは謝られたはずだけど」


「確かにそうなんですがまだ全員謝ってないんです。だからカズヤさん達が行ってしまう前に言いたくて……あのときはすみませんでした」


 ヨリックの言葉を合図に周りの子ども達も一斉に謝り始める。


「ごめんなさい!」

「すみません!」

「ホントにごめんなさい」


 こちらとしてはもう気にしてもいないのだがこれは子ども達のけじめのようなものなのだろう。

 下手したら大人以上にしっかりした子ども達だ。

 この調子なら今後の生活も上手くやっていけるに違いない。


「お前らの気持ちは十分伝わった。その件はこれで水に流す。ソフィー達もそれでいいか?」


「当たり前じゃない」

「許す……」

「うん、許すよ」

「私ももう気にしてない」


 四人全員の回答を聞いたところでもう一度子ども達の方へと顔を向ける。


「そういうわけだ。じゃあ今度こそ行くからな」


「はい、お気をつけて下さい」


 村の子ども達と俺達が助けた女性は一斉に大きく手を振り始める。

 俺達もそれに合わせて軽く手を振り返した。


 さてこれからカタストロまでは本格的に厳しい山道が待っている。

 しっかり気を引き締めるとしよう。


◆◆◆◆◆◆


 村を出てしばらく経った頃。

 既に道が険しくなっておりいつも以上に馬の体力を奪っていた。

 休憩も今を合わせて五回目だ。


「やっぱり山はキツいな」


「思った以上に先に進まなくてイライラするわね」


「まぁまぁ、馬も休ませないとダメだろ?」


「それはそうだけど、なんとかならないのかしら」


 なんとかなっていたらこの状況にはならないのだが。

 今のソフィーに言うのは控えた方がいいだろう。

 火の中に大量の油をぶちまけるようなものだ。


「それよりもソフィー、リーネと鈴音を見てみろよ」


 そう言って俺が指差したのは馬車の荷台に座って山の風景を楽しんでいるリーネと鈴音だ。


「あれがどうしたっていうの?」


「いやソフィーもあの二人みたいにしたらいいんじゃないかと」


「あそこでジッとしてるのはちょっと厳しいわね」


 そう言われても今やることと言えば風景を見るか、馬車の御者をするかしかない。

 他にやることなんて……あっ。

 一つあるじゃないか。

 それもソフィーにピッタリのやつが。


「ソフィーにピッタリの仕事があるぞ」


「ピッタリの仕事?」


「ソフィーは今あまりにも馬車が先に進まないことを不満に思っているんだよな?」


「ええ、そうね」


「それにソフィーは回復魔法使えるだろ?」


「そうね。あんた達が全く怪我しないから最近は忘れかけてたけど使えるには使えるわ」


「そこでだ、ソフィーには馬に回復魔法をかけてもらう。そうするとどうなる?」


「まぁ元気になるんじゃないかしら」


「そう、元気になってすぐ走れるようになる! これがどういうことだがもう分かるよな?」


「なるほど! それで時間を短縮出来るってわけね! そんな大事なこと何でもっと早く言ってくれなかったのよ!」


 それはさっき思い付いたからなんだが。

 わざわざ言う必要もないか。


「とにかくお願い出来るか? ソフィー」


「もちろんよ、任せなさい!」


 ソフィーはそれからすぐに馬のもとへと行き回復魔法をかける。

 すると魔法をかけられた馬は見るからに元気になった。


「これならかなりの時間を短縮出来そうだな」


 俺達はこれまでの遅れを取り戻そうとすぐに馬車を走らせることにした。

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