第77話 潜入 Ⅳ


「入り口まで急いで戻ってきたけど歩きで村に向かったのか?」


 盗賊アジトの入り口まで戻ってきた俺は先にアジトを脱出しているはずのソフィー達を探していた。


「村まで距離があるから歩きで行くはずないんだけどな……」


 ちなみにだがアジトは俺が脱出する際に至るところで岩を実体化させて潰しておいた。

 これは今後の盗賊による近隣の村の被害を抑えるためだ。

 あれだけ荒らしておけば簡単には活動を再開出来ないであろう。

 俺はアフターケアも欠かさないのである。


「あの……」


「どこに行ったんだ?」


「あの……すみません!」


「……うわっ! ビックリした! 誰かいるのか?」


 後ろを振り返ると馬車の御者をしていた少年、ヨリックが木の影から手招きをしていた。

 どうやら村へと戻らずにアジト横の森までまわってきたらしい。


「すみません。驚かせてしまって……」


「いや俺こそなんかすまん。それでソフィー達は……」


「はい、それでしたら先に馬車で待ってますよ」


「なら良かった。探す手間が省けたよ」


 アジトへと続く一本道の横にある茂みから無数の木がある森を抜け反対側へと出る。

 抜けた先には行きにお世話になった俺達の馬車が停まっていた。


「ようやく来たわね。もう遅いじゃない」


「すまない、ちょっと手間取ってな」


「そんなことはどうでもいいわ、早く馬車を出してちょうだい!」


「そうだな、助けた五人のこともあるし村に急ごうか」


「帰りも僕が御者をしますよ」


「おう、任せるよ」


 こうして俺達は御者をヨリックに任せて再び馬車に揺られ村へと戻ることになった。

 行きはあれほど気になった揺れも帰りはその揺れがいい感じに疲れた体を刺激し俺達を眠りに誘ってくる。

 実際にソフィー、リーネ、それに鈴音がその誘惑に負けて眠り落ちていたのを俺は確認している。

 終始そんな様子で馬車に揺られ、ようやく村にたどり着いた頃には日が沈みかけていた。

 出発したのは朝なので、今日丸々一日アジトで過ごしていたことになる。


「皆さん、お疲れ様です。村につきましたよ」


「ふぁああ……もうついたの?」


「よく寝てたな、ソフィー」


「そうね、よく眠れたわ」


「他の寝ているやつも起こしてくれ。あかりは助けた人達を頼む」


「分かったよ。カズヤはどこか行くの?」


「ああ、ちょっと村の子ども達を呼んでくる」


「呼んでくるって何で?」


「ああ、出発前子ども達に対して助けてくるって言っちゃったからな。でも結果はたった五人なわけだろ?」


「そうだけど……それは仕方ないことじゃない」


「それでも結果的に全員連れ帰ることが出来なかったのは事実だ。じゃあ後は頼むぞ、あかり」


 俺は一人馬車の荷台から飛び降りる。

 その後に続いて誰かが馬車を降りる気配がした。


「僕もご一緒します」


 俺の後に馬車を降りてきたのは今日馬車の御者でお世話になったヨリックだった。


「その悪かったな。全員助けられなくて」


「あの……とても言いにくいんですがあの中に僕たちの知っている人は誰一人いなかったです」


 ヨリックの口から出てくる衝撃の事実に俺は驚かずにはいられなかった。


「そうか……俺達は誰一人助けられなかったんだな」


「そんなことはないですよ。カズヤさんは五人も助けたじゃないですか」


「でも約束した人達は誰一人助けられなかった」


「それでも五人も助けたんですよ。カズヤさんはしっかり自分の役目を果たしましたよ。それに悪いのは早く行動しなかった僕たちです……」


 ヨリックは自分を責めながらも必死に俺を気遣う。


 本当だったらわんわん泣いてもいい年頃だろうに俺の気遣いか……。


「強いんだな」


 俺は思い上がっていたのかもしれない。

 俺ならどんなことでも出来る、何でもこなせると。

 だが現実は俺なんかに救える命などたかが知れている。

 どう頑張ったって神になれるわけではないのだ。

 だから今は救えなかったことを嘆くよりも救った命について考えた方がずっといい。

 ヨリックはそれを既に分かっているのだろう。

 全くどっちが子どもなのか分からないな。

 穴があったら入りたい気分だ。


「強いって何がですか?」


「ああちょっとな。それよりも村の子ども達を呼びに行くか」


「そうですね」


 それから俺とヨリックの二人は今回の成果を報告するため村の子ども達を呼びにいった。

 その際、子ども達の両親を助けられなかったことを責められると思っていたのだが意外なことに俺を責める子どもは一人もいなかった。

 それどころか今日は村に泊まってくれと言い出す始末。

 そんな子ども達の大人すぎる対応に俺はつい拍子抜けしてしまった。

 そしてその後助け出した五人を村へと運び込みベッドに寝かせた後のことだ。

 五人の看病をしていた俺はヨリックに呼び出された。



「あのカズヤさん。これを受け取ってください」


 ヨリックは懐からじゃらじゃらと音のなる袋を差し出す。


「これってもしかして」


「はいお金です。これは村に元々あったものなので安心してください。そのカズヤさん達には色々迷惑をかけたのでぜひ受け取ってもらいたいと……」


 やっぱりお金か。

 しかし、子ども達からお金を受けとるわけには行かない。

 気分的にカツアゲしている感じがして嫌なのだ。

 それに今は今後の生活のためにそのお金を使って欲しい。

 どう伝えれば引いてくれるのだろうか。

 難しい問題だ……。


「えーとだな。そのお金は受け取れないっていうかなんというか……とにかく自分達で使ってくれ!」


「でもそんなわけには……」


「ああ、俺達はあれだ。お金たくさん持ってるからな。もうこれ以上持てないんだよ」


 俺は一体何を言ってるんだ。

 自分でも何を言っているのか分からない。


「そうですか。それなら仕方ないですね」


「そ、そうなんだ」


 いくら大人びてると言ってもやはりまだ子どもなのか先ほどの訳の分からない言い訳で納得してくれたようだ。


「夜遅くにすみません。今日はそれだけです。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 それにしても子ども達に怖がられることもなくなったな。

 初めの頃はだいぶ怖がられていたような気もするが今はその気配すら感じない。

 これは受け入れられたってことなのか……?


 俺は子ども達に受け入れられたことに少し嬉しさを感じながら五人の看病へと戻った。

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