第5話 実体化
『さて何のスキルを取得しようか』
暗い森の中、スキル取得画面を見ながらそう呟く。
現在絶賛取得するスキルを選んでいる最中である。
選び始めてからかれこれ一時間は経っているのではないだろうか。
『このスキル良いかもな』
そう言って選んだのは『成長速度倍加』だ。
だが残念『成長速度倍加』を取得するためには SP を100ポイント使うようである。
『……まだ取得出来ないか』
そしてまたスキルを眺める作業に戻る。
一時間ずっとこれの繰り返しである。
もう言っていいだろう。
一時間ずっと耐えていたが我慢の限界だ。
今まで思っていたことをそのまま口に出す。
『今取得出来るスキルねーじゃねーかっ!』
その声はこの森中を駆け巡った気がした。
不満は声に出すのが一番スッキリする。
この一時間で学んだ大事なことである。
それはともかくまだ日が沈んで数時間しかたっていない。
幽霊の俺にとってがこれからが本番の時間帯だろう。
そうなればやることは一つ……。
『朝まで狩りでもするか。』
そうして再び狩りを開始する。
◆◆◆◆◆◆
「グギャ!!」
ゴブリンの断末魔の叫び声が辺り一面に響き渡る。
これで何体目だろうか。
この森にはゴブリンしかいないのかと思うほどゴブリンしか出てこなかった。
「これで切り上げて町に戻ろう」
あれから休みなく狩り続けてもう日が昇ろうとしていた。
「そろそろ休みたい」
肉体的には幽霊なので疲れていないが精神の方は限界を迎えている。
「最後にステータスでも確認するか、あれからどのくらい上がっているかも気になるしな」
そうこのときのために狩り中はステータスを見ないでおいた。
楽しみは最後までとっておくタイプなのだ。
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名前: カズヤ
種族: 幽霊
職業: 守護霊(放棄中)
Lv.26
HP : 0/0
MP : 467/467
ATK : 0 (種族特性)
DEF : ∞ (スキル補正)
MATK: 213
MDEF: 148
DEX : 282
SP : 250
スキル:『実体化』、『物理攻撃無効』、『メテオ(笑)』、『集中』、『夜目』
称号 : 『車に轢かれちゃった系男子』、『異世界の幽霊』、『流石にあの攻撃はエグいでしょ』、『ゴブリンを殲滅せし者』
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結構レベルが上がってる。一日でいったいどれだけのゴブリンを狩ったらここまで上がるのやら。
レベルの上がり具合から三百体は優に越えているだろう。
体も少し軽くなったような気がする。それと新しいスキルも手に入れたみたいだ。
新しいスキルの詳細を見るため説明文を表示する。
『集中』・・・敵の弱点が瞬時に判断出来る。戦闘時のみ有効。
『夜目』・・・暗い場所でも物の形や人の形などがはっきり見える。
『夜目』は便利だな。
これなら夜の狩り中に木の根っこに足を引っ掛けるということもなくなるかもしれない。
『集中』の方は使えるっちゃ使えるが、敵をすり身状態にする攻撃方法を持っている俺からすると今の時点では使えない。
でも今後必要になるときが必ず来るだろう。
ちなみに『実体化』のスキルだがレベルが上がる度に長い時間強く念じなくても発動するようになった。
どうやらステータスに依存していたみたいだ。
あとスキルと言えば SP である。
ようやく SP が250ポイントになりスキルが取得出来るようになった。これでスキルを二つは取得出来るだろう。
スキルは一旦落ち着いてから取得するとして、まずは町に帰ろうと思う。
今回の狩りでは森に入ったとは言っても森の浅いところにしか行っていないのですぐに森を抜けられるだろう。
「さて、ステータスも確認したことだし戻りますか」
頭の中で何のスキルを取得しようか考えながら町に向かった。
「おい、そこのやつ! 止まれ!」
城門の兵士が声を荒げる。現在城門を通ろうとする最中である。
──後ろに誰かいるのか?
そう思い後ろを振り向くも誰もいない。
この兵士何か見えているのか?もしかしたら働きすぎて疲れているのかもしれない。
そう思い心の中で『お疲れ様です。』と呟き再び歩きだそうとするも……。
「おい、聞こえてるのか!」
と声を上げながらこちらへと近づき俺の肩を掴んだ。
「え? 俺の肩を掴んだのか?」
俺の肩を掴んだことに驚き後ろを振り返る。
「お前以外に他に誰がいるんだ」
「え、でも……」
「怪しいやつめ。とにかくこちらに来るんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、少し話を……」
こうして兵士の詰所まで連行された。
詰所に連行されて初めに何やら神社に置いてあるような石の台座まで案内される。
「ここに手をかざしてくれ」
そう言われて手を翳すと台座が青く光だす。
「何だ犯罪者ではなかったのか動きが怪しかったからつい……。おい! そこのもう帰って良いぞ」
その光景を見て兵士は俺に帰るように促した。
「は、はぁ」
連行されて数分も経っていない。どうやらただ疑われていただけのようだ。
だがここで黙って帰ることなど出来ない。
どうしても聞きたいことが一つだけあるのだ。
「もしかして俺のこと見えてるのか?」
「ん? 何を言っているんだ。仕事の邪魔だからさっさと帰れ」
自分でも何を言っているんだろうと思っているくらいなので兵士にそう言われるのも当然のことだろう。
とにかく早くこの場を離れよう。
「いきなり変なこと聞いてすまん。もう行くよ」
そう言って兵士の詰所から出た。
街の中に入ってからというもの人の視線を感じる。
どうやら本当に今の俺の姿は見えているらしい。
なぜこうなってしまったのか。原因はあれしか考えられない。そう『実体化』である。
多分レベルが上がり強く念じなくても実体化することが出来るようになってしまったためだろう。
それでも無意識で実体化することはないはずだ。
少なくともある程度……ってそう言えば最初から意識しなくても地面に足をつけて歩けていたじゃないか。
もしかしたら死んでからずっと自分が気づかない内にもう一度自分自身の体が欲しいとでも念じていたのかもしれない。
それがこの世界に来て『実体化』のスキルによって叶えられた。それにレベルが上がったことによって体の一部分しか実体化することが出来なかったのが、全身を実体化することが出来るようになったのだろう。
人生何があるか分からないものだ。この場合は人生ではなく霊生なのか?
とにかくせっかく実体化出来ているのだからこの世界を楽しむ他あるまい。
そう考え一歩踏み出すが考え事をしていたのがいけなかったのか何か壁のようなものに当たった。
こんなところに壁あったっけなと思いながら上を見上げると……。
「あ? 何だコイツ」
「ちょうど良い。コイツにしましょうよ」
「あぁそうだな」
身長二メートルはあるだろう男二人組が立っていた。
「ちょっと来な!」
「ちょ、ちょっと待って……んんん」
声を上げるも待ってくれるはずもなく口を押さえられる。
攻撃力 0の俺は何の抵抗も出来ずに路地裏に引きずり込まれた。
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