第4話 初戦闘


 検証した結果、分かったことが三つある。

 まず一つ目、『実体化』を発動するまで今まで長い時間念じていたが別に時間は関係なく念じる強さが大事なことだ。なので強く念じれば一瞬で実体化することも出来る。今後短期間で集中して念じることが出来るように鍛える必要があるだろう。

 二つ目は形に出来るものなら実体化をすることが出来るということだ。想像や妄想でもしっかりイメージ出来てるのなら念じるだけで実体化出来る。これもイメージ力を鍛える必要がありそうだ。

 三つ目は実体化したものを任意で消せるということだ。例えば、一本の剣を実体化で生み出したとしよう。その場合、その剣が俺とどんなに離れていたとしてもこちらが消したいと思えば消すことが出来る。詳細はよく分からないが何かしらリンクのようなものが繋がっているのではないだろうかと勝手に思っている。


 以上の検証結果から分かったことだが俺自身を鍛えればこのスキル『実体化』は超がつくほど使いやすい。

 だが今後使うにしてもまず俺自身を鍛えなければならないだろう。

 さて問題はどうやって鍛えるか。

 念じる力やイメージ力を鍛えると言っても具体的に何をすればいいのか分からない。

 でもそれは元の世界の話だ。

 この世界ではステータスという概念が存在する。

 もしこの世界に存在する生物全てがステータスに依存しているのならレベルを上げれば上げるほど自身の身体能力が高まる。

 それによって間接的に念じる力とイメージ力を上げられるだろう。

 繰り返すことになってしまうがそれはステータスに依存していればの話だ。まだ確証も何もない。

 それでもレベル上げはしておいて損はないと思う。

 ステータス上では確かに強くなっているのだから、全依存はしなくても多少は影響があるに違いない。

 とりあえず俺自身がステータスに依存するか確かめるためにいくらかレベルを上げる必要があるだろう。

 レベルを上げるのならばやはりモンスターとやらを倒すのだろうか。

 だとしたらファンタジーなのだから城下町の外に出ればモンスターくらいいるかもしれない、もしいなかったとしても野生動物相手にレベルを上げれば良い。

 そうと決まったら行動あるのみ。

 何時間もお世話になった路地裏に別れを告げ、城下町の周りを囲っている城壁を目指すように大通りに出た。


 大通りに出るともう夕方だというのにうるさいほどの喧騒が辺りを支配する。


「そこの兄ちゃん! ちょっと食ってけよ」

「今ならコイツとコイツをまけるよ」


 俺の近くでは強引な客引きをする厳ついおっさんとそんなに沢山まけても大丈夫なのかと思う程まけてくれるおばちゃんが通行人を引き止めていた。

 俺はその光景に……。


 ──何か生き生きしてるって感じがして良いな。俺も生きてるときはこの空気感が好きで良く近所の商店街に行っていたな。


 とさながら元の世界の近所の商店街のような雰囲気を感じ懐かしむ。

 おっと、まったりしている場合じゃなかった出来れば今日中に検証したい。

 そう思い少し急ぎ気味で城下町全体を囲っている城壁に向かった。


 城壁に向かっている途中で思ったことだが城壁付近の人気がやたら少ない。

 元の世界と違って夜に外に出るのは危ないのだろうか。

 だからといって元の世界では安全ということでもないが……。

 それはさておき、今回は壁をすり抜けるのではなく普通に城門から出ることにした。

 俺だってすり抜けたい気分のときとすり抜けたくない気分のときがある。


 そう一人ぶつぶつ言いながら城門を出ると目の前には豊かな大自然が広がっていた。

 いやこれは豊かというより豊かすぎるの方が正しいと思う。

 目の前の地面が剥き出しな道以外ほとんど、いや全てが木で覆われていた。


『これは誰も外に出ないわけだ』


 昼間ならこの森の中に入っても辛うじて外に出ることは出来るだろう。だが夜に入ってしまったら最後、外に出られない可能性の方が高い。


『今日中に検証したいし入るしかないか』


 そう言って自分を強引に納得させ森の中に入った。

 しばらく森の中を探索すると何かの鳴き声らしきものが聞こえる。


「グギャグギャ!」


「グーギャグギャ!」


 声がする方に向かってみると緑色の肌をした子供くらいの身長の生き物が二体いた。


『あれはゴブリンか?』


 木と木の間から見えるその姿にゲームでよく見るモンスターの名前を呟く。

 やつらがこちらに気づいている様子は無さそうだ。


『ちょうどいい、こいつらでレベルを上げますか』


 その言葉を残しゴブリンの二体に向かって駆け出した。

 ゴブリンの間近に迫っても気づく様子がないので俺はそのまま素手を振りかぶり殴るが……。


 ──あれ? 攻撃が当たらないというかすり抜けて…………OK、状況は理解した。


 この状況に一瞬戸惑うもすぐに理解し初期位置に戻る。

 ちょっとはしゃぎすぎて自分が幽霊だってことを忘れていた。

 よくよく考えたらモンスターを倒そうとは思ってても倒す方法までは考えてなかったな。どうするか……。

 俺の腕を一瞬だけ実体化して殴り続けるとか? いやまだそれだけのことが出来るとは思えない。

 ならば上から物を落として自由落下によってダメージを与えるか? 良いかもしれない。この案でいこう。

 早速集中してゴブリンの上に大きい岩が実体化するように念じる。


『岩よ……』


 すると突如ゴブリンの真上に直径にして二メートルはあるだろう大きな岩が現れる。その岩は出現後すぐに重力に従い落下し、ゴブリンを押し潰しながら大きな音をたてて地面に跡をつけた。

衝撃的な光景に放心状態になるもすぐに復帰して先程の攻撃について考える。


 ──まさかこんなに強い攻撃だったとは。これは今後の主力な攻撃になりそうだ。


 と思う一方……。


 ──敵の真上に岩を落とすってエグくない?


 と言った具合に自分で考え自分で実行したのにも関わらず大胆かつ豪快な攻撃に自分でも若干引いていた。


 まぁどんな方法でも勝てば良いのである、勝てば。

 気を取り直してステータスを見るとしよう。


 そう思いながら慣れた手つきでステータスを表示する。


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名前: カズヤ

種族: 幽霊

職業: 守護霊(放棄中)


Lv.3


HP : 0/0

MP : 62/62

ATK : 0 (種族特性)

DEF : ∞ (スキル補正)

MATK: 54

MDEF: 30

DEX : 49


SP : 20


スキル:『実体化』、『物理攻撃無効』、『メテオ(笑)』


称号 : 『車に轢かれちゃった系男子』、『異世界の幽霊』、『流石にあの攻撃はエグいでしょ』


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 色々ツッコミたいがまず『流石にあの攻撃はエグいでしょ』って称号はなんだ! 確かに俺も思ったがわざわざ称号にする必要はないだろ! これだとステータス開くたびにこのことを思い出すことになるだろうが!

 それとスキルの『メテオ(笑)』って確実にあの岩落としだよな。ステータスを見てるだけなのに疲れてきた。

 まだ一回しか使ってないが、どうやら俺のステータスはあの攻撃がお気に召したらしい。いつまでも俺のステータスについてとやかく言っても仕方ない、ここで一旦称号とスキルのことは置いておくとしよう。

 それよりも気になるのは SP だ。

 少なくとも前回まではステータスの表記になかったのでレベルが上がってから新しく表記されたのだろう。

 考えても分からないので『実体化』のスキルでSPの説明を見る。


 『SP』 ・・・ スキルを得るのに必要なポイント。レベルを上げる度に10ポイントずつ取得する。


 なるほどこれで新しくスキルを取得できるわけか。でも SP を使うにはどうしたらいいんだ? 使うように念じれば良いのか?

 早速 SP を使うように念じてみる。

 念じ続けているとステータスの上に新たに画面が表示された。

 どうやらこの画面からスキルを選んで取得するらしい。


『この際いくつかスキルを取得してみようかな』


 俺はその場に立ち止まって取得するスキルを選ぶのだった。

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