第3話 ステータス


 全面石壁で囲まれた部屋を出るため階段を上がると目の前には自分の身長の軽く五倍はあるような巨大な城壁が見えた。

 城壁は自分達の周りを囲むように延びており一体どこまで延びているのか検討もつかない。

 その城壁の内側には中世ヨーロッパでよく見るような塔が二つ突き出ている城があった。

 どうやら先程までいた部屋は城の城壁内の地下にあったようである。


「ではこちらに」


 お姫様は生徒達を城の内部に案内する。

 生徒達がぞろぞろと城に入っていくなか俺もそれに続いて入ろうとするが……。

 入ろうとした瞬間パシンと何かに弾かれ二十メートル後方に飛ばされてしまう。

 何が起こったのか分からず、再び城に入ろうとするも、またもや、弾かれてしまう。


 ──これは何かあるのか?


 よく目を凝らして城を見るとそこには半透明の結界らしきものが城を囲むようにして展開されていた。


『これじゃ俺入れないな』


 俺には妹と幼なじみの守護霊という大事な仕事があるのだがこのままではその仕事が出来そうにない。

 しばらく悩むも答えが出ず、結局最後に導きだしたのは……。

 鈴音もあかりもこの世界では勇者として国に保護される。そしてなにより普通の人よりは強いんだし大丈夫だろう、という安直な考えだった。

 こうして早々に俺は城に入るのを諦め、開かれている城門の隙間から見える城下町に向かった。


 城下町に入るとファンタジーものでよく見る賑やかな喧騒などはなく高級そうな馬車がちらほらと通っているだけだった。

そこから少し進むと城と比べて少し簡素な城壁が見えた。どうやら住む人の階級によって区画を分けているらしい。さしずめこの区画には貴族か何かが住んでいるんだろう。

 城壁をすり抜けると先程の静かな雰囲気は消え去り、耳を塞ぎたくなる程の喧騒に包まれた。


 ──やっぱりファンタジーってこれだよな。


 感慨に浸るもやるべきことを思いだし頭をふる。

 俺は辺りを歩きながら人目につかない場所を探し、歩いて少しのところの路地裏に入った。

 何故人目につかない路地裏に入ったか?それは俺が今からやることが人目につくと困る可能性があるためだ。人目も何も幽霊なのでないのだが気分の問題である。


『よし、始めるか!』


 俺は召喚されたとき一つ疑問に思っていたことがあった。まぁ今の今まで気にもしていなかったのだが。

幽霊の俺は元の世界では物質に触れることが出来なかった。それは地面に足をつけることさえもだ。

 だがどうだろう召喚されてから足をつけることも壁を殴ることも出来ている。つまり物質に触ることが出来るのだ。

 これは俺の仮説だが、この世界に来て俺の能力に何かしらの変化が起こったのではないのだろうかと思う。

 だがこの世界に来てからの変化を唯一確かめることができるステータスは見ることが出来ない、でもステータスを見なければ何も始まらない。ならどうするべきか。数で押せば良いのである。


『ステータスオープン!』

『我が能力よ。我の前に現れよ!』

『開けゴマ!』

──。


 そう考え手当たり次第にステータスを開きそうな言葉を言っていった……。



 そして数時間後……。


 ──やった! やったぞ! ついに念願のステータスが!


 目の前にはゲームでよく見るような半透明な板が表示されていた。

 体感時間で開始からおよそ五時間くらい経っていたと思う。開始したときはまだ日が真ん中くらいにあったのだが、今はもう沈みかけている。五時間もめげずに続けられたのもどうしても知りたいという執念と根性の賜物であろう。

 一体どのような方法でステータスを表示させたのか。それは五秒間強くステータスが出てくるように念じるだけである。

 ああ、たったそれだけだ。こんな簡単なことに何でこんな時間をかけたんだだって?

 むしろ何もヒントがない状態から見つけ出したことを褒めて欲しいくらいである。そもそもステータスが開け…………(ry。


 さて皆さん(主に俺)お待ちかねのステータスタイムだ。このときをどのくらい待ったことか。

 幽霊だから時間感覚が狂ってて実は数ヶ月も経ってたりして……冗談はこれくらいにしてステータスを見てみよう。


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名前: カズヤ

種族: 幽霊

職業: 守護霊(放棄中)


Lv.1


HP : 0/0

MP : 34/34

ATK : 0 (種族特性)

DEF : ∞ (スキル補正)

MATK: 34

MDEF: 20

DEX : 21


スキル:『実体化』、『物理攻撃無効』


称号 : 『車に轢かれちゃった系男子』、『異世界の幽霊』


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 名前はこっちだと名字がとれて名前だけになるようだ。種族も職業も今まで通りで気になるのは HP と DEF それと ATK だ。

 HP が 0 とはどういうことだ。それだとまるで既に死んでるみたいである。あ、もう死んでたな……。

 そして HP とは逆に DEF の方は無限となっている。これなら例え何者かに襲撃されても物理面では安心できる。しかし、 ATK の方は 0 なので襲撃者に何も出来ないが。まぁその前に幽霊の俺が襲撃される事態なんて起こらないか。

 後気になる点といったらスキルと称号だろうか。称号は見ると色々思い出すので飛ばすとして後はスキルか。

 『物理攻撃無効』は何となくわかる、だって幽霊だからね。でも『実体化』って何だ? 『実体化』といったら実体の無いものを形にするということだ。

 もしかしたら、これが足を地面につけたり壁を殴ったり出来た要因なのかもしれない。だが確証がない、せめてスキルの説明を見れないものか。

 ステータスを念じて出せたのだからスキルの説明も念じて見れるかもしれない。

 そう思い実行に移す。ステータスを出したときと同じ要領でスキルの説明が出てくるように強く念じた。


『ハァァァア!』


 声を出しながら強く念じ、もう息が続かないと思ったそのとき視界のステータスにポップアップ画面が表示された。

 表示されたそのポップアップ画面を見てみると……。


 『実体化』・・・ありとあらゆるものを実体化することが出来る。発動条件:念じること。


 見たかったスキルの説明について書かれていた。

 出来た! やはり念じれば出来るようだ。

 それにしてもこの説明、もしかして今まで念じて出せていたのってこのスキルのお陰じゃないか?

 それに足が地面についたり、壁を殴れたりしたのも自分を一部実体化してのことだとすれば説明がつく。この部分に関しては検証する必要があるな。

もしこの検証が上手くいけば危険なく効率的に強くなることが出来るかもしれない。

 今のままじゃ物理攻撃はよくても魔法攻撃で即死とかあり得るからな。


 そう考えた俺はそれからひたすら壁を殴り続けたり壁にダイブしたりした。

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