一章 最強の証明

第2話 召喚


 光は次第におさまっていったが少しの間、閃光弾を受けたときのように視界がぼやけていた。まぁ俺自身生きている間に閃光弾を受けたことはないのだが。

 とにかく光がおさまってから少しの間は何も見えなかった。

 幽霊の俺でも何も見えなかったので他の人達もきっと見えなかったに違いない。それから三十秒程かけて視界を取り戻していった。

 視界を完全に取り戻して初めに飛び込んできた光景は視界いっぱいに広がる石壁だった。

 何故に石壁?と思いながらも辺りを見渡して見るがどこを見ても石壁 、石壁、石壁と石壁に周りを囲まれているようだ。

 足元を見ると何やら六芒星を一回転させたときの残像を全て重ね合わせたかのような紋様が半径三十メートルの円の中を埋め尽くすような勢いで描かれており、その円径の紋様が描かれている台座は台座周りのの床と比べて一段高くなっていた。

 生徒達も初めはただボケッと突っ立っていただけだったが次第にこの異様な光景に混乱したのか……。


「なんだ! 一体何が起こっているんだ!」

「どこなの? 早く元のところへ返して!」


 と口々に不安を漏らしていた。

 どうやら俺達は密室の部屋に閉じ込められたらしい。そう結論づけるとほとんど同時にゴゴゴッという音が聞こえる。

 俺達は音がした方に一斉に顔を向けた。

 顔を向けた先にはこの石壁で囲まれた部屋に不相応な白いドレスを身に纏った金髪碧眼の如何にもな、お姫様が佇んでいた。

 俺達が黙ってそのお姫様に目を向けていると……。


「皆様、こんにちは。突然のことで混乱していることと思いますが、私の話をお聞きいただけるでしょうか」


 お姫様が話し出したので、とりあえず話を聞くことにする。

 聞くにしても聞かないにしても幽霊だから気にも留められないだろうが、そこは一旦置いておいて欲しい。

 そんなことを考えていた矢先、ある男子生徒が現状に対しての文句をお姫様にぶつけた。


「そんなことどうでも良いから早く元いた場所に戻せや!」


 それが引き金となったのか同じ事を考えていた生徒達が次々とその男子生徒に同調した。


「そうだ、早く返せ!」

「ふざけるな!」


 だがしかし、そんな声はある人物の一言で一瞬にして止む。


「静まれぇぇ!」


 生徒達は突然響いたその声に驚き竦んだように見えた。

 声の正体は誰なのかと声を辿ると、全身金色の金属鎧を着こんだ騎士っぽい人がいつの間にかにお姫様をいつでも守れるような位置についていた。

 どうやらさっきの声はこの騎士のようである。


「姫様の前で無礼であるぞ! 文句があるなら私が直々に聞いてやろう。さぁどうする?」


 暴力で解決する気満々である。

 流石に武装した騎士に丸腰で楯突こうなどという馬鹿な考えを起こす奴はいなかった。


「待ちなさい、アレス。暴力で解決するのは良くありません。皆さん、私の騎士が失礼を致しました」


「ですがセレス様!」


「良いのです。私達が無理やり呼び出したのも事実、非は一国の姫である私にあります。皆さんも許して貰えるとは思いませんが申し訳ありませんでした」


 美少女であるお姫様の謝罪を聞いてなお、気を悪くする人などいない。

 もちろん、初めに文句を言っていたあの男子生徒も例外ではなかった。


「まぁいきなりだったからな……俺も悪かったよ」


「まさか許して頂けるなんて! ありがとうございます」


 そのやり取りを見ていた俺は初めに文句を言っていた男子生徒に対して一つこう思った。

 チョロリンピックで金メダルとったな、と。


「さて、皆様。今一度ではありますが私の話をお聞きいただけるでしょうか」


 そう仕切り直したお姫様に生徒達は首を縦に振ることで了承する。


「ありがとうございます。私の自己紹介がまだでしたね。私はセレス・グーテンベルグと申します。以後お見知りおきください」


 そう言ってお姫様はドレスの裾を少しつまみ上げ優雅に礼をする。


「そして私の隣にいる騎士が私の専属騎士のアレスです」


 騎士は名前を呼ばれると一歩前に出て軽く礼をする。


「自己紹介が済みましたのでいきなり本題に入らせて頂きます。私達が皆様をお呼びしたのはこの世界を救っていただきたいからです」


「それはどういうことでしょうか?」


 そう発言したのは妹達のクラスの中でも中心人物といっても過言ではない人物、風間亮太である。

 彼はスポーツの万能さやコミュニケーション能力の高さもさることながらルックスも良いという人間とは思えない驚異的なステータスを有している。まさに完璧超人だ。


「はい、それを今から説明致します。まずはこれをご覧下さい」


 そう言って取り出したのは手のひらサイズの水晶玉のようなものだった。


「これは能力玉と呼ばれている代物で手を翳すと自分の能力値が見れます。皆さんにはすてーたす?と言った方が分かりやすいかもしれません。すてーたす?は自分自身でしか見れないものなのでどなたか手を翳してみて貰えませんか?」


 そこに手を挙げる者が一人いた。


「分かりました。私が代表してやりましょう」


 当然というかやはり手を挙げたのは風間亮太である。

 自ら犠牲となりこの能力玉の安全性を確かめる出来た人間は世の中に早々いない。彼がおモテになるのも納得といったところか。

 俺がそんな無駄な思考をしている間にも風間は能力玉に近づいて行く。そして能力玉の前まで辿り着くと足を止めた。


「ここの上に手を翳せば良いのですね?」


「はい、お願い致します」


 風間が手を翳すと能力玉が激しく発光する。

 それにしてもこの能力玉はかなり目に悪い。俺のような守護霊ではなく悪霊とか地縛霊だったら祓われているレベルの眩しさである。


「こ、これは? 頭の中に文字が浮かんで来ました」


 その言葉に一部の生徒達がざわつく。

 それもそうだろう、今まで半信半疑だった自身の能力値を見れるという能力玉の効果が風間によって証明されたのだから。


「その文字はそれぞれ自分自身の能力を表しています。今、同じものを持って来ますので暫しお待ち下さい」


 そう言ってお姫様は騎士に能力玉を持ってくるように指示をする。それから数分も経たないうちに五つの能力玉が横一列に並べられた。それぞれの能力玉の左右には兵士らしき者が一人ついており能力玉がどれだけ貴重なものなのかを物語っている。


「準備が整いましたので五つの列に別れて一人ずつご自身のすてーたすをご確認下さい」


 そんなにも自分のステータスが知りたかったのか五つもあった能力玉の前に一瞬にして生徒達の列が出来た。

 生徒達は自分のステータスを確認し、近くの兵士に自分のステータスを報告している。しかし俺はその列に並ぶことなく能力玉の前に並んでいる人達とは反対側まで回り込んだ。

 そう俺はそもそも幽霊なので自分のステータスを知るのに列に並ぶ必要はない。待つ必要もないのだ。

 さっそく自分のステータスを確認しようと俺は前の人が手を翳したタイミングで同時に手を翳す……がどういうことか俺には一切ステータスの情報が流れて来なかった。

 翳せていなかったのかと思いもう一度同じ手順で先程よりも能力玉の近くに手を翳す。だがそれでも俺には一切ステータス情報が流れて来ない。


 ──何故だ何故にステータスが見れないんだ! もしかして二人同時にステータスを見ることが出来ないのか?


 そう思った俺は次は誰も能力玉に触っていないタイミングで能力玉に触ろうとする。しかしそこで手が止まった。

 俺が能力玉に触れば、当然能力玉は光る。端から見れば能力玉が独りでに光ったように見えるだろう。もはやそれはポルターガイストではないかと思ったのだ。

 しばらく考えるも答えが出ず……。


 ──まぁいいか、俺が気にすることでもない。


 結局俺はそう結論づけて能力玉に手を伸ばした。


 すると能力玉はまばゆい光をはなつ……ことはなかった。


 ──え? あ、そうか使いすぎて壊れたんだな。

 全く物を大切にしないとダメだろ、と心の中で壊した誰かを責めて次の能力玉に手を伸ばした。


 すると能力玉はまばゆい光をはなつ……ことはなかった。


 ──これもダメか。

 ──今日はついてないかもな、でも五つ中二つも外すなんて逆に運が良いかも。

 そう思いそのまた次の能力玉に手を伸ばした。


すると能力玉……はなかった。


──まだまだ!


 すると能力玉……なかった。


 ──ラスト!


 すると……なかった。



『フンスッ!』


 自分の中に溜まりに溜まったフラストレーションを全て石壁にぶつける。

 おかしいだろ、幽霊だからダメだって言うのか。俺だって自分のステータスが見たいっていうのに。ステータスを見て自分のステータスの高さに驚いてみたい。


『ステータス……ステータス……ステータス……』


 唱えてもやはり何も起きない。

 俺がステータスを唱えている横では、風間亮太が主に女子から注目を浴びていた。


「風間君、職業勇者だったの? すごい!」

「風間君に守られたい!」

「風間君、こっち向いて!」


 風間は少し困った様子でそれに対応していた。


『俺もステータスが分かって死んでさえなければあれくらい……』


 それから少しして全員分(俺を抜いて)のステータスが調べ終わる。お姫様は能力玉とともに兵士を下がらせ、先程話をしていた位置まで戻ってきた。


「皆様お疲れ様でした。ご自身のすてーたすはいかがでしたでしょうか。さて話は戻って先程の続きです。皆様にも先程確認してもらった通りこの世界ではどんなものにでもすてーたすが存在します」


 そのとき、またもや風間が手を挙げる。


「話の途中すみません。この世界というのは私達がいた世界、地球のことですか?」


「申し訳ありません。その説明を先にするべきでしたね。この世界はアンクロットと呼ばれております。皆様のいた世界から見れば異世界です」


 その言葉に生徒達はざわめく。


「皆様は誰しもこの世界の人間とは比べ物にならないくらい強い力を持っています。なので皆様には十年前この世界に復活した魔王を倒していただきたく、私達が召喚致しました」


「それが召喚した理由ということですか?」


「はい、そうなります」


「ちなみにですが、ここでこの話を拒否したとして元の世界には帰ることは出来ますか」


「私では詳しく分かりませんが過去に召喚を行った際には魔王を倒した後元の世界に帰ったと聞いております」


「分かりました。今現在はどうしようもないと言うことですね」


「そうですね……」


 それを聞くと風間は生徒達に振り返りこう言った。


「みなさん、セレスさんのお願いを聞いてみませんか? 帰りたい人もいるかもしれませんが今はそれが出来ません。魔王がいるんだとしたら、その分この世界で強くならないと生きていけないと思います。魔王を倒すにしても倒さないにしても力は必要です。だとしたらここで駄々をこねるよりも一旦ここでお願いを聞いて自分を鍛えつつ帰る方法が見つかったら帰れば良いと私は思いますがどうしますか?」


「亮太がそう言うんだったら……。」

「風間君の言うとおりだよね。」

「しゃーねー亮太に付き合ってやるよ。」


 風間の考えに生徒達が次々と同意を示す。


「色々勝手に言ってしまいましたが、セレスさんもこれで大丈夫ですか?」


「はい、問題ありません。改めてようこそアンクロットへ! 勇者様!」


 そう言ってお姫様は生徒達を伴って場所を移動する。


『とりあえず守護霊だしついて行くか』


 そしてそこに俺もついていった。

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