乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

プロローグ

第1話 プロローグ


 突然だが幽霊という存在は信じるだろうか。

 幽霊とは世間一般では生き物の死後、思考主体として存在が継続したものとか人の残留思念が目に見える形で現れたもの、などと言われているが、実際に知るものはいないだろう。

 いや、中には実際に知っているという人もいるのではないだろうか?

 じゃあ知っている人とは実際にはどんな人だって?

 それは例えば幽霊自身とか……。

 ちなみに俺は信じているというか信じざるを得ない。

 なぜなら俺自身が世間一般でいう幽霊というやつなのだから。



 俺は生前、三森和哉みもり かずやと言われていた。

 生前は星野森学園という如何にもギャルゲーで舞台になっていそうな学校へ通っており、可愛い幼なじみや可愛い妹といった人間関係にも恵まれていた。

 もうこのまま進めばギャルゲーをそのまま再現できそうな勢いだった。だが高校一年生のある日、夢のような生活は唐突に幕を閉じる。

 それは俺と俺の幼なじみ、藤堂とうどうあかりと俺と双子の妹、三森鈴音みもり すずねで一緒に学校から帰宅していたときのことである。

 家まで一直線に歩いていける道に出た俺はいつものように二人に顔を向けるように後ろ向きで歩きながら話していた。


「なぁ、あかり。今度あのマンガ貸してくれよ」


「また? いい加減自分で買いなよ」


「別に良いだろ。減るもんじゃないんだし」


「減るわよ。主に私の財布の諭吉さんと野口さんが」


「うっ……。分かった今度いくらか払うよ」


「まったく、お兄ちゃんはこれだから……」


「え? 鈴音もちゃっかり読んでただろ!?」


「まったく何のことかうんぬんかんぬん……」


「お前裏切ったな!」


 俺が妹に掴みかかろうとしたそのとき突然俺の前、二人から見れば後ろから異音が聞こえてきた。

 その異音の発生元である白の軽乗用車は猛スピードでこちらに迫って来ていて、俺達が反応する頃には俺達とその車の間の距離は十メートル程しかなかった。

 咄嗟に二人を車の進行方向と逆側に突き飛ばし、それに続いて俺も車の進行方向と逆側へ逃げようとしたが、間に合わなかった。

 間に合わなかったことを脇腹に与えられた鈍痛で知った。

 激しく鼓動する痛みはバッドを連続でフルスイングされているような激痛だった。

 吹き飛ばされた後しばらく呻き声をあげ、その激痛に耐える。

 呻き声をあげて激痛に耐えている間、ちらっと二人を見たが怪我をしている様子はなくどうやら放心しているだけのようだった。


 ──まぁこんなことが突然起これば放心状態になって当然か。

 ──とにかく二人に怪我がなくて良かった。傷なんて作ったら折角の綺麗な肌が台無しになっちゃうからな。


 俺は思考を無理やり働かせて少しでも激痛を誤魔化そうとする。

 その甲斐あってか段々と痛みは感じなくなった。

 だがそれと同時に音も聞こえなくなり、視界もぼやけていく。

 そして意識も徐々に遠のいていき……。


 俺、三森和哉は死んだ。


 俺は確かに死んだ。死んだら何も感じないはずだ。だって死んでいるのだから。

 死んだのはまごうことなき事実である。

 だが何故か死んだと本能的に感じ取った直後体がフワッと軽くなったような感覚に包まれた。

 この現象に天国って本当にあったんだ、というおめでたい考えが浮かんできたのは俺が頭を打ったからであろうか。

 とにかく状況を確かめるため閉じていた目を開いた。

 するとどういうことだろうか、足元には死んでいる俺が倒れていて俺に覆い被さるようにして泣いている二人の周りを救急隊員が取り囲み、さらにその外周には騒ぎを聞きつけたであろう野次馬がこぞって写真を撮っていた。

 一瞬何が起こっているか分からなかったが次第に納得する。

 これでも飲み込みは早いほうだ。

 つまり俺は………。



 こうして高校一年のある日俺は世間一般で幽霊と呼ばれる存在になった。

 あれから一年経ち、次第に多くの人の記憶から俺という存在が薄れる中、俺は星野森学園のある教室にいた。

 その教室は俺が生きていればお世話になったかもしれないところである。

 何故その教室にいるか? それは簡単である。

 幼なじみのあかりと妹の鈴音の守護霊をやっているからだ。

 守護霊といっても一日中付きっきりではない。実守護時間が七時間半でそれにお昼休憩が一時間の合計八時間半体制で守護をしている。こう決めて置かないとプライベートな時間がとれないからだ。

 俺は教室内をぐるりと一周する。

 平常時はそれくらいしかやることがないのである。

 今なら人と話すということがどれだけ贅沢なことか分かる気がする。

 そう思っていると、突然教室の床が光だした。


『なんだ、この光は……』


 呟くもこの声は当然他の人達には聞こえない。

 それに仮に聞こえたとしても、この騒ぎでは声は届かないだろう。


「うお、眩しい!」

「え? どうなってるの?」

「目が、目がぁぁ」


 段々と大きくなっていく騒ぎに共鳴するようにその光は次第に強くなり……そして俺達は光のなかに呑み込まれた。

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