第十七話 海を目指して
ロレンは自分の家の商会の名前を使って、行商人のルートで『海辺の街の教会にいる女性の
砂漠からサラサスーンへ戻ったタイミングで入ったのは『海辺の街で耳なしの娘さんから、教会宛の手紙を預かった』という有力情報。
そして今、おそらくロレンは、俺が目指すべき街の情報を持ってきてくれた。
「ヒロト、ハル! 以前、教会宛の手紙を届けたと言っていた行商人と連絡が取れました。どうやら、耳なしから預かった手紙らしいです」
声を
「おかーさん、どこにいるかわかったの!?」
「ハルくん、ナナミさんかも知れない耳なしさんです」
ロレンがハルの耳に口を寄せる。だからそこじゃない、もっと上だ。まあ、いいか。
ハルがこそばゆそうに首をすくめてから、俺の方を見て頷く。
「その耳なしの場所は?」
「間に人が入っていますからね。わからないそうです」
「
「はい。ザドバランガ地方の『トルルザ』という海辺の街、そこの教会へ手紙を届けたそうです」
「そうか」
そこに行けば、耳なしからの手紙の内容を教えてもらえるだろうか。手紙を見せてくれるだろうか。ナナミからの手紙だとしたら、俺に渡る事を想定したものだろう。行ってみる価値はある。
「行きますか」
「ああ、行く。ロレン、たくさん、
「ザドバランガは黒猫の英雄譚の舞台となった地方です。耳なしは悪の権化ですよ」
「うまくやる」
「せめてハザンかアンガーを連れて行きませんか」
「奴らにも生活、ある」
俺の事情に巻き込むにも限度がある。なによりも、俺は対等でありたいと思っているのだ。付いて来てもらうのも、金を払って守ってもらうのも真っ平御免だ。
俺のそんな強がりのような、子供じみたプライドは捨てるべきだろうか。ハルとハナを守る事が、俺に出来るだろうか。そもそも危険な旅に、ふたりを連れて行く必要があるだろうか。
ふたりの寝顔を見ながら、毎晩のように自問自答した。
俺は、もうハナの手を放す事は出来ない。ハルが一緒でなければ、旅立つ意味があるとも思えない。なにが正解かなんて、きっと全て終わったあとにだって、わからないだろう。だったら、やってみるさ。
三人でナナミを迎えに行こう。俺とハルとあくびで、ハナを守ろう。俺に出来る精いっぱいで、ハルとハナを守ろう。
それしかないじゃないか。
「ありがとうロレン。でも、決めた事なんだ」
準備が出来次第、ザドバランガに向けて旅立とう。三度目になる旅も、やはり海を目指す。
『
七回でも八回でも旅立つさ。そんな覚悟は転移初日に出来ている。あとは見つけるだけだ。ナナミは逃げも隠れもしていない。鬼ごっこより、隠れんぼうより簡単じゃないか。
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