第十三話 砂漠メシ

 砂漠の景色はどっちを見ても、同じように赤い砂丘が連なっている。ふとした拍子ひょうしに自分のいる場所を見失う事など良くある事だ。そんな時は太陽や星の見える方向や、越えてきた砂丘の数などで判断する。


 俺の場合はまだそう多くの星を覚えていないけれど、明けの明星とよいの明星だけは必要に迫られてわかるようになった。


 どうしても方向転換しなければならない時は、一番高い砂丘に木の枝を差すことにしている。風で倒れたりはあるかもだけどな。


 あとは念のため留守番役のハザンが、一定時間ごとにかねを鳴らす事になっている。砂漠で迷子なんて、本当に勘弁して欲しい。



 あ、なんかフラグっぽいかも。今のナシ、今のナシで!




 なんとか? フラグを回避して、野営場所に戻る。


 砂漠ガゼルを、ドヤ顔でハザンに渡す。決めた訳ではないが、ほとんどの獲物の解体はハザンがやる。ハザンは向かってくる相手には滅法めっぽう強いが、そおっと近づくとか出来ないので狩りは苦手なのだ。


「大物じゃねぇか!」と言うハザンに、あくびが仕留めた、と言うと


「パラシュが狩りの手伝いするなんて、聞いた事もねぇけどな。そいつ変わってるよな」


 と、あくびをあごで指して言った。そう言われてみれば、一緒に旅をしていても、あくび以外のパラシュは、ほとんど人に興味を示さない。




 馬車を降りてから旅は順調に進み、既に街道の行き止まりの街を過ぎている。そこから先は砂漠の民でなければ越えられない。道なき砂漠の案内人が必要なのだ。


 行き止まりの街で雇ったガイドは、ハルより少し年上のピンと尖った茶色い耳を持つ少年だった。名前を、ルカランという。ルカランのガイドは堂にっていて、星を読みながら、危なげなく砂丘を越えてゆく。ルカランいわく、ポーラポーラの街までは、あと二日程度だそうだ。


『ポーラポーラ』はキャラバンの目的地であり、有名な宝石の産地だ。旅の難易度は高いが、商人にとっては文字通り宝石箱のような街だと言う。



「ハル! フルカ採ってきたのか? オレはコモラを見つけたぞ!」


 ルカランがハルに走り寄って言った。コモラはいくら噛んでも繊維が残るが、たいそう甘い汁が出る。フルカもコモラも、子供が大好きなサボテンだ。


「ルカランすごい! コモラ、なかなか生えてない!」


 二人はお互いの戦利品を見せ合いながら、早速並んでサボテンにかぶり付く。


 ロレンはルカランと狩りに行っていたらしく、砂漠ウサギをハザンに渡している。アンガーは、今日の寝ずの当番だったので仮眠中だ。


 俺が煮炊きの焚火の準備をしていると、ハルとルカランが手伝いにやってきた。穴を掘り、燃料の炭を入れる。立ち枯れの木の枝を細かく砕き、火を点ける。


 ガゼルの解体をしているハザンのところに行き、肋骨ろっこつ周りの肉を骨つきでもらう。今日はスペアリブの煮込みを作ろう。


 フライパンに肉の脂身を入れ、遠火で油を出す。その後肉の両面に焼き色をつけてから、肉汁ごと砂漠の民の鍋に入れる。フルカの皮を剥きぶつ切りにしたものと、レンコンのような食感のサボテンの実も入れる。


 タッパーからレバーを取り出し、薄切りにする。フルカの皮を細切りにしたもの、サボテンの実を砕いたものと合わせ、いた小麦粉をくぐらせて揚げ焼きにしてみよう。


 ひまわり油をフライパンに多めに入れ、カリカリになるまでゆっくり火を入れる。かき揚げ風になったら塩を振り、ルカランとハルに味見をしてもらう。


「なにこれ! うめぇ! もっと!」


 おお、大好評だ。急いで食べて、口ん中火傷やけどすんなよ!


 煮込みが出来るまでまだかかるから、先につまんでもらおう。


 日が暮れたら出発だ。砂漠の旅はまだ続く。

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