第九話 乾燥注意報

 砂丘に挟まれるように伸びる街道を馬車が走る。薄っすらと砂に覆われた石畳いしだたみは、いつか砂に飲まれてしまいそうで、心許こころもとない気持ちになる。


 ナツメ椰子やしに囲まれた、小さなオアシスをひとつ、露店ろてんが立つ小さな街をひとつ越えた。いつくかの荷を降ろし、ナツメ椰子やサボテンの実、サーボスの粉を買う。サーボスの粉はオアシスに生える木の実をいた粉で、砂漠の民はこれでパンを焼く。硬いが栄養があって腹にズッシリくる。


 ナツメ椰子は地球のものと良く似ている。生でも食べられるし、ドライフルーツにすると干し柿のように濃厚で甘い。そして、サボテンの種類はサラサスーンと、比べものにならないくらい豊富だった。


 味や食感も様々さまざまで、肉の旨味が沁みやすい大根っぽいものや、オクラっぽいネバネバ、アスパラっぽく瑞々しいもの、ほのかに甘くサクサクとした、マカロンっぽいものまである。共通しているのは、生でも食べられるし、料理にも使える。そして乾燥に強く保存も効く。


 サボテン万能ばんのう過ぎる。輸送時のリスクさえクリア出来れば、もっと流通するだろうに。


 ナツメ椰子の木陰で、水場を眺めているだけで、染み渡るような安堵感あんどかんを感じた。水の心配などした事のない日本人には、砂漠のプレッシャーはキツイ。水のたるが全てれていて、途方に暮れる夢を何度も見た。俺は口に入れるもの全般と、一日に二十リットルも水を飲む馬の世話を任されているのだ。


 露店で砂漠のたみが使う鍋を見つけた時は、飛び上がるほど嬉しかった。ふたが三角帽子のように尖っていて、鍋の中の水蒸気は三角帽子の天辺てっぺんで水滴になって鍋に戻る。砂漠ではこの鍋でほとんど水を使わずに煮込み料理を作るそうだ。



「次の街で、馬車を降ります」


 実際、馬の消耗は激しく、水の消費も大き過ぎる。だから野営中にロレンがそう言った時には、誰もが頷いた。


 それは同時に、馬や馬車と一緒に留守番をする人が必要になるという事だ。そして、街道の行き止まりの街で降ろすはずだった荷物を、どうにかしなければいけない。


「ガンザ、次の街は大きい市が立ちます。露店ろてんを出して、荷物の商品をさばいて下さい」


 うん。ガンザは人当たりもいいし、交渉も出来る。きっと海千山千うみせんやませんの客にも負けないだろう。


「トプルは馬の世話と、馬車の護衛をお願いします」


 うん。トプルは腕っ節も立つし、よく俺が馬の世話をしていると手伝ってくれた。


「俺も残っていいか?」


 ヤーモが珍しく手を上げて言った。


「ああ、ヤーモは暑いのが苦手ですからね。わかりました」


 三人も抜けるのか。


「俺とハルは?」


 俺が聞くと、ハルが泣きそうな顔をした。自分は残っても着いて行っても、役に立たないと思っているのだろう。


 バカだな! ハル、大人に混じって役に立つ八歳児なんているわけないだろう?


「ハルは大切ないやし要員ですからねぇ。ハルを連れて行っても良いですか?」


 ロレンが留守番組に聞く。


「仕方ねぇな。ハル坊はゆずってやるよ! 俺たちはのんびり留守番するさ」


 ガンザが言った。みんながハルを気遣ってくれるのは嬉しいが、心苦しくもある。


 それはそうと、俺は連れてってもらえんのか、な?

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