第十話 パラシュ

 さて、馬車を降りてどうやって旅を続けるかというと、砂漠に特化した『パラシュ』という大トカゲに乗る。コモドドラゴンがスタイリッシュになって、立ち上がった感じだ。


 大きさは馬くらいで、二本足で走る。ゴツゴツした背中に何枚も毛織り物を重ねた座席のような鞍を乗せ、その上に乗る。『どんだけ開く気なんだよ!』という感じの口をしている。退化したはずの前足の爪は、今なお自己主張が激しい。


 砂漠に入ってから、街道やオアシスで何度かパラシュを見かけた。


 爬虫類だった。


 もしかして、大人しくて穏やかなトカゲなのかも知れない。調べてみた。


 めっちゃ肉食だった。


 イヤイヤ、でもみんな乗ってるし、危険はないよな? 大丈夫だよな?


 トンネルを出た時、それも面白そうだ! とか言ってたの誰だよ! 俺だよ!





 ただ今、絶賛ご対面中である。


 ここは砂漠の中継地点。あっちから来た人と、こっちから来た人が、それぞれの積荷つみにを取り引きしたり、オアシスでのんびりしたり、酒場でちょっと羽目を外したり、露店を冷やかしたりする、賑やかな街だ。


 俺たちのキャラバンはここで馬車を降り、パラシュへと乗り換える。貸し馬ならぬ、貸しパラシュ屋で、相性の良さそうなパラシュをそれぞれ選んでいるところだ。


「相性、わからん、どこ、見る?」


 誰とはなしに聞いてみる。


「目を合わせて、話しかけてみろ」


 ハザンが言った。えっ? 答えてくれんの?


 俺は適当に目の合った一頭に話しかけてみた。


む?」


 首をかしげられた。


 振り向くと、ロレンとハザンが腹を抑えて震えている。


 おまえら、食事係ナメンナヨ! トウガラシで火を噴くか? その敏感な鼻がワサビに勝てると思うなよ!


 俺は首を傾げたパラシュを借りる事にした。少なくとも、頷いてはいない。




 宿屋でそれぞれ荷物をスリム化する。水、食料、燃料が優先だ。調理器具も大きい物は置いて行く。砂漠の鍋、包丁、やかん、小さいフライパンと調味料。最低限の食器とカップ。こんなもんかな?


 俺が個人的に持っていくのは、スマホとソーラーパネル付き充電器、スケッチブックと画材、寝袋、着替え少々、スリング一式、ペットボトル水筒、ラッカ。結構多いな。


 ハルは、折り紙用紙、さゆりさん・パラヤさんの単語帳、影絵劇場セット、着替え、スリング一式、ペットボトル水筒。


 パラシュは六頭借りた。俺とハルは一緒に乗り、二頭に荷物のみを積む。


 ロレンとガンザが帰ってきた。露店商の顔役のところに、挨拶に行ってきたらしい。


「売り上げの一部をおさめる条件で、馬車と馬を預かってもらえました。防犯の責任は負わないらしいので、トプルとヤーモ、お願いしますね」


 トプルとヤーモが頷く。


「今回の件は私の見通しの甘さが原因です。苦労をかけて、申し訳ありません」


 頭を下げたロレンに、ガンザが言う。


「若旦那は、まだ負けたつもりはねぇんだろ? だったら謝るこたぁねぇよ」


 ロレンがふてぶてしく、ニヤリと笑う。


「そうですね。ここからが腕の見せ所です」


 商人の世界はよくわからないが、食わせ者二人のやり取りに、ハルが目にあこがれの色をにじませる。


 お父さんは、真っ直ぐなハルくんが好きだぞ!


 しばらく二手に分かれる事になってしまったが、次に会う時に色々楽しい話が聞けそうだ。俺も頑張ろう。具体的に言うと、まずはパラシュの頭を撫でてみるとか、名前付けてみるとか。


 ほら、怖くない、とか。


 いや、それはやめておこう、きっと死ぬ。

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