閑話 恋の季節

 部屋でひと休みしてから、トプルとハザンを誘いに行く。とは言っても、案内してもらうのは俺だ。


 ハルはアンガーの部屋に泊めてもらう事になっている。置いてけぼりでふくれるかと思ったら、影絵劇場セットを持って、案外いそいそと出かけて行った。




 宿屋で持ち運びのできるランタンを借り、暗い夜道を歩く。大きな通りに出ると、ちらほらと街灯が灯っている。東京の夜と比べるものでもないが、満天まんてんの星空と三日月、ぼんやり灯る街灯はなんとも風情がある。


 この世界はお化けとか妖怪とかいるのだろうか? 存在するか、という意味じゃなくて、概念がいねんとしてあるのかどうかだ。


 お化けや妖怪は人間が闇を恐れるから生まれるのだろう。暗闇の見えない場所に、何か得体の知れないものを想像し、恐れる。


 この世界の獣の人は、種族によるが人間よりはるかに夜目よめが効く人が多い。俺には暗い夜道に街灯がぼんやり灯って見えるこの風景は、ハザンやトプルにはどんな風に見えているのだろう。


 ネコ科の高性能な目を持つ、ロレンやアンガーには、暗視カメラの映像のように見えるのだろうか。そういう意味では、彼らに暗闇は存在しないのかも知れない。


 お化けや妖怪は、この世界では居場所がないのかもな。それはそれで少しさみしい気もする。


 そんな事を考えながら歩いていたら、店に着いたようだ。






「ギャハハハハ! ヒロトヒロト! 知ってるか? 兄貴、最初の発情期の時なー! 好きな女の前で踊ったんだぜ! ソレ鳥の奴らだっつーの!」


 コレ、だれ?


「バカヤロー、それ教えたのおまえじゃねーかよ。あん時、俺がどんだけ笑われたと思ってんだよぉー」


 わかった! わかったから泣くなよ!


「そんでな! ヒロト! 次の発情期の時、兄貴どうしたと思う? もう女の匂い嗅ぎたくないっつって、山にこもったきり降りて来なかったんだぜ!ギャハハハハ!」


 コレ、だれ?(二回目)


「バカヤロー、次はどんな踊り踊るか、みんなが賭けてたの知って、俺がどんだけキズついたと思ってんだよぉー」


 ハザン、マジで気の毒だな……。それに、俺、トプルがわからなくなったよ。いぶし銀で縁の下の力持ち的な感じで、気配りも出来て頼りになってストイックなオトコだと思ってたのに。


 酒って怖えぇ!




 その後、合流したガンザに聞いてみたら、発情期はあるにはあるが、一種のお祭りのようなものらしい。


「思春期の一時期は暴走するやつもいるが、親や周りの大人が総出でフォローに回るんだよ。まぁ、大人になるにつれ、自然に制御できるようになるもんだ」


 そして発情期でなくても子供はできるそうだ。進化の名残りのようなものかも知れないな。


 ちなみにこの暴走期間に、ハザンのような黒歴史を刻む奴は結構いるそうだ。大人連中はフォローに回るとか言って、絶対楽しんでるよな。


 なんて楽しそうなんだ! ぜひ俺も参加したい。


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