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泣きつかれて、きみは眠ってしまった。そのほほに流れていたなみだの、さいごのひとすじを、ひとさしゆびでそっとぬぐう。ひとり眠れないぼくは、むかし読んだ詩の一節をおもいかえしていた。

なみだが、人間の作るいちばん小さな海なのだそうだ。

それなら、海が、地球の流すいちばん大きななみだなのかもしれない、とそのときかんがえたことを、いまでもおぼえている。

さっき、君が泣いたら、ぼくがなぐさめるよ、と言ったら、じゃあ、いつかあなたが泣いたときは、わたしがなぐさめてあげる、ときみはかえしてくれたけれど、それなら、もし、地球が泣いたら、いったいだれがなぐさめてあげるのだろう?

ぼくの肩はあまりにせまくて、地球をだきしめることはできないし、ぼくの両腕はあまりにみじかくて、地球の頭をなでることはできない。

泣いていることにも気づかれず、なぐさめてくれるひともいない、ひとりぽっちな地球。

すべての生きとし生けるものをその胸にだきながら、だれからもだきしめてもらえない、かわいそうな地球。

それならぼくは、地球をなぐさめるかわりに、地面に寝っころがっていっしょに泣こう

ぼくときみと地球、背中あわせで三人なみだを流したら、きっと、かなしみの色も温度もまざりあって、にぶくぬるくなるかな。





「ねぇ、かなしい地球を慰めるためには、ぼくのすべてはあまりにちっぽけで無力で、それがいっそうかなしかったんだ」

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