00:17

泣きつかれて、きみは眠ってしまった。そのほほに流れていたなみだの、さいごのひとすじを、ひとさしゆびでそっとぬぐう。ひとり眠れないぼくは、むかし読んだ詩の一節をおもいかえしていた。

なみだが、人間の作るいちばん小さな海なのだそうだ。

それなら、海が、地球の流すいちばん大きななみだなのかもしれない、とそのときかんがえたことを、いまでもおぼえている。

さっき、君が泣いたら、ぼくがなぐさめるよ、と言ったら、じゃあ、いつかあなたが泣いたときは、わたしがなぐさめてあげる、ときみはかえしてくれたけれど、それなら、もし、地球が泣いたら、いったいだれがなぐさめてあげるのだろう?

ぼくの肩はあまりにせまくて、地球をだきしめることはできないし、ぼくの両腕はあまりにみじかくて、地球の頭をなでることはできない。

泣いていることにも気づかれず、なぐさめてくれるひともいない、ひとりぽっちな地球。

すべての生きとし生けるものをその胸にだきながら、だれからもだきしめてもらえない、かわいそうな地球。

それならぼくは、地球をなぐさめるかわりに、地面に寝っころがっていっしょに泣こう

ぼくときみと地球、背中あわせで三人なみだを流したら、きっと、かなしみの色も温度もまざりあって、にぶくぬるくなるかな。





「ねぇ、かなしい地球を慰めるためには、ぼくのすべてはあまりにちっぽけで無力で、それがいっそうかなしかったんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る