23:59

にんぎょひめは、王子さまとむすばれてはいなかった

遊園地のうさぎの中には、知らないおとこのひとが入っていた

道徳の教科書は、カラフルなもえるごみでしかなかった

世界はあんがい嘘つきで、そのくせ嘘をつきつづけてはくれなくて、信じていたものが、じつはどこにもなかったのだということを知るたびに、ぼくは、ぼくのこころのどこかが、すこしずつ壊れていったのを知っていた。ぼくは世界の嘘に気づくたびに、すこしずつ、たいせつな宝箱のなかみをうしなっていったのだ。

それなのにぼくはいま、きみのこころを守ると言いわけをしながら、きみに嘘をつこうとしている。

これからきみをひとりぽっちにしてしまうこと、でもこころまでひとりぽっちにはさせたくないこと、未来のきみをきずつけることと引きかえにしてでも、いまのきみを守りたいこと、ぜんぶ、ぼくのわがままな自己満足だ。

世界も、ほんとうはあのときのぼくを、守ってくれていただけだったのだろうか。







「ひとは、しんだらおほしさまになるんだよ。きみがわらっていられるように、おそらのうえから、いつもみまもっているから。だいじょうぶだよ。だからどうか、なかないで。」

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