第8話 殺し合い 初日・昼




 AM12:00。

 ――ゲーム開始。



 内臓された体内時計が正午になった瞬間、私の行動を制限するために囲っていた鋼色の壁が突然真っ二つに裂けた。



 暗闇から光指す外の世界へ。私は瞳のピントを暗視モードから標準モードへと切り替える。


『……始まったみたいだな』



 今回のゲームのために脳内に埋め込んだ通信機器から、くたびれたおっさんの声――エディの声が聞こえた。ここに来る前に何度かテストしたのだが、やはり頭の内側から声が聞こえるというのは違和感がある。



「エディ、ちゃんと見える?」



『おう。見えるし聞こえる。ちょっと辺りを見渡してみてくれ』



 言われた通りに私は辺りを見渡す。


 今時珍しいぐらいの木々が私を囲むように生い茂っていた。森の中であろうか? ぐるっと一周してみるが、木がいっぱいぐらいの感想しか抱かなかった。



『……ふむ。ネルの現在地は『森エリア』みたいだな。視界が悪いが身を隠すにはうってつけだな。幸先良いじゃないか』


「どーも」



 この無人島の全体像は事前に支給されており、私はそれを記憶していた。ただ、私の現在地が島内のどこにいるかは、体内の発信機を受信できるオペレーターのみ知り得る情報だった。



 ――『森エリア』。言葉の通り、無人島の北西の端にある人間の手がかかっていない、そのままの自然があるエリアである。



 番組を撮影するにあたって、運営は大量の空に飛ばした撮影用ドローンと、アンドロイドに内蔵されたカメラで無人島内の出来事を録画していた。



 撮影のために空けたエリアが多い中『森エリア』は珍しく視界が悪い場所だった。



 このゲームの勝利条件はあくまで最後の一体まで生き残る事だ。アンドロイドを倒す事で多少の利益はあっても、基本的には待ちの姿勢が好ましい。戦いに向いていない私なら尚更である。



 百体のアンドロイドは、無人島内で多少の距離を取ってランダムに配置される。他のアンドロイドも動き出しているだろう。



『出来る限り、正面から勝負を受けるな。確実に勝てる戦い以外は、全力で逃げろ』



 ――数日前、悩みに悩み抜いた末に二人で決めた作戦であった。というか、これ以外どう頭を捻っても勝てる見込みが無かったのだけど。



 そして、この『森エリア』は、最初に身を隠すエリアの中で最有力候補だった。

 ……最も、同じ考えて森へと向かって来るアンドロイドがいないとも限らないが。



「……とりあえず、少し歩いてみる」



『そうか。ここからだとそうだな……西南に真っすぐ歩くと小屋がある』



 エディの言葉を聞き入れて、私は体を向きを西南に向けて歩きだす。身を出来る限り潜ませて、伸び放題の雑草を掻き分けて進む。辺りは虫の鳴き声や小動物が走る音が聞こえた。



 三十分ほど気配を消して歩いただろうか、急に視界が開けて目の前に小屋が現れた。森はまだ抜けてはいないが、小屋を中心に半径五十メートル程度の空間には木が生えていなかった。



 細心の注意を払って、忍び足へ小屋の中へと入った。ヒビが入って今にでも崩れそうな小屋の内部は、落ちた天井の破片や割れたガラスなどで随分と荒れていた。




 かなり年代が経過している所を見ると、以前に誰か住んでいたのだろうか? 私は破片を踏まないように進み、押し入れの中を物色すると――



「……あったよエディ。バッテリーが」



 ホコリにまみれた引き出しの中に、場違いに奇麗な黒い塊を見つけた。手に持って確認した後、背中に背負った鞄に入れた。



 以前に放送された『ドールズアイランド』で予習した通りだと、このゲームのポイントになるのは『武器』と『バッテリー』だろう。



 バッテリーというのは、私が活動するために必要な電気が蓄電された電池の事を指す。



 普段なら態々バッテリーを取り換えなくてもコンセントに接続すればいい話なのだけど、この無人島には電気が通った施設が無いと事前に通告されていた。



 つまり、生き残るためには電池切れする前に無人島に置かれたバッテリーを入手していかなければならないのだ。



 そしてバッテリーと同じぐらい重要になるのが武器。



 百体のアンドロイドは最初、鞄だけ持たされた状態でスタートしているのだが、無人島内にはバッテリーと同様に武器が隠されているのだ。まずは武器を入手しないと、話にならない。



「……バッテリーと古びたナイフにライターかぁ。まぁ上々かな」



 引き出しの中の物色は終えた私は、今にも崩れ落ちそうな押し入れの取っ手に手をかける。



 ゆっくりと開けると、中には禍々しい形をした武器が置かれていた。



「エディ……何コレ?」



『……分からない。一見する拳銃のような形をしているが……』



 恐る恐る銃らしきものを持ち上げて―――気付く。この重み、この感触。


「これって、もしかして……ネイルガン?」



 武器ということで何かを破壊する道具という先入観があってすぐに気付かなかったがしかし、手に持ってみるとコレは間違いなく建築などで使われるネイルガン――または釘打機と呼ばれている代物だった。



 拳銃よりも二回りほど大きく、どっしとした重みがある。鉛玉の代わりに釘を噴出する口は、銃に比べて一回りほど小さい。



 私が愛用していたネイルガンと比べると、なんだか妙な装飾がついて妙にゴテゴテしていた。側についている液晶画面はどのような用途で使うのだろうか?



 ただのネイルガンだった場合、機械兵器達の激闘で活躍出来るとは思えないが、まぁ手ぶらよりはマシだろう。



 ネイルガンの活用法については追々考えるとして、私は手早く武器と釘が入った箱を鞄に押し込み、敵と遭遇する確率の高い小屋から逃げるように立ち去った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る