第7話 アンドロイドに人権はありません⑦





 ゲーム開始まで残り二十四時間――――。



「遅いぞエディ! こんな時間まで何してやがった!」


「いやはや、ご迷惑をおかけしてすみません。ちょっとネルと揉めましてね」



 管理者に怒鳴られて俺は慌てて新幹線に乗車する。少し後に不貞腐れた顔をしたネルが頬を膨らませながらついて来た。



「いきなり揉め事か。大丈夫だろうな? くれぐれも、わが社の代表として来ているのを忘れずに、恥の無いように戦ってくれ」


「あ、はい。全然大丈夫です。喧嘩するのも仲が良いとやらなので」



 ――勝てじゃなくて、恥の無いように戦って、か。


 分かっていたが、管理者はネルがバトルロイヤルゲームを勝ち残るとは全く想定していないようだ。


 いいだろう。


 その方が、管理者の驚く顔が拝めそうだ。



「エディ、あれは無いんじゃないの? イカサマじゃないの! 異議あり! 仕切り直しと謝罪を要求するわ!」


「お前はいつまで言っているだよ。ああいうのはな、イカサマを疑わない時点でネルの負けなんだよ」


「でもイカサマしたよね?」


「……まぁ、イカサマしたな」


「ごめんなさいは?」


「……悪かった」


「んふふ。よろしい」


「……何をじゃれついているんだ、お前らは」



 席に座った管理者が二人を呆れ顔で見ていたので、俺はあえてニヤリと笑う。



「いやぁ、ちょっと前の乗り換えの電車で暇潰しのポーカーをしていたのですが、思いの他白熱しまして。気が付いたら乗り遅れてしまってました」



「……お前は緊張感というのは無いのか?」



「もちろんありますよ。だから誤魔化しているんですよ。この一週間で悩み飽きたんで、今日ぐらいはお得意の誤魔化しをしようかと」


「……ふん。ヤケクソという訳か」



 本気で勝ちに来ていると言ったら管理者は笑うだろうか? とふと思った。



 ――辛気臭い顔よりも、笑った顔が好きだとネルは月が奇麗な夜に言った。なら見送りの今日ぐらいは笑顔で手を振ってやろうと心ひそかに誓っていた。



 全く、慈愛に満ちたいい主人だぜ。



「エディ、さっきも言ったけど、ここは禁煙よ」


「ちょっ! おいっ! ……あぁ――――……ニコチン摂取してぇなぁ」



 タバコを咥えて火をつける寸前でネルに取り上げられて、俺は新幹線の外から見える景色を眺めて喫煙の衝動を誤魔化した。




 新幹線に一時間ほど乗用し、タクシーを利用して番組が用意した自家用ジェットのネルを乗せて、生き残りのゲームが開催される無人島へと旅立っていった。



 管理者はこれから他社との会議があると言ってタクシーに乗って何処かへ行ってしまった。ポツリと取り残された俺は、まだ開催まで半日以上の猶予があるのを良い事に、付近の適当なラーメン屋で食事を取った。



 ひとたび無人島に足を踏み入れたらあらゆるネットへの接続は禁止されているこのゲームだが、オペレーターだけがアンドロイドに取り付けられた映像と音声を頼りに、連絡および命令をすることを許可されていた。



 オペレーター同士が協力することはルール違反で、また番組自体が収録後に放送されるため、参加したアンドロイドが何をしているのかどんな性能なのかが何も分からない。



 出場するアンドロイドの数は、百体。最後の一体になるまでゲームは続く。

 当然、勝ち残る確率は性能の違いを考えないで百分の一。戦闘用アンドロイドではないネルが勝ち残る確率なんて、それこそ天文学的数字だろう。



 ……でもまぁ、やるしかない。俺ごときがどれだけ貢献できるか知らないが、彼女が生きようとする限りは精一杯サポートに徹しよう。


「……まぁ、なんだ。――――……頑張れ、ネル」



 約束はちゃんと守れよ。

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