第4話 アンドロイドに人権はありません④
「というか前から思ってたが、アンドロイドがタバコ吸ってうまいのか?」
「うまくはないかな。なんというか、吸ってる事が落ち着くというか。そもそも私に味覚ないしね。エディはタバコうめー! って毎回思いながら吸ってるの?」
「んー。確かに口が物寂しい時や落ち着きたい時に吸いたくなるなぁ。ルーティーンみたいなものか。はたまたニコチンに操られているだけなのか」
「禁煙しないの?」
「よっぽどの事が無きゃ止めねぇかなぁ。せめて俺ぐらいは好きでいないと、タバコが可哀想だ」
「体に悪いよ?」
「馬鹿。タバコっつーもんはな、あー癌になるー! って思いながら吸うからいいんだよ。そもそも長生きするつもりもねーしな。無趣味なおっさんの唯一長続きした趣味みたいなもんだ。所詮俺なんか、煙を吸うために生きて来たみたいなモンだしなぁ」
「もー。本当に捻くれているんだから」
「ほっとけ」
くくくとエディは肩を上下させながら笑った後、皺だらけの手を持ちあげてタバコを吸う。長い間吸っているだけあって、手慣れた様子だった。
「「ふ――――ッ………………!」」
今度は私が意図的にタイミングを合わせて煙を吐いた。
「最近じゃ誰もタバコ吸う仲間がいねーから、お前が分かる奴で嬉しいよ」
「……分かんないよ。何にも。私が存在する理由も、アンドロイドとして生まれたのも」
「哲学的だなぁ」
「……ねぇ。工具握ってる時とか、タバコ吸っている時に妙に馴染む感覚があるのだけど、これって何かな?」
「んー……分かんねぇけど、多分前の記憶がどこかで残ってるんじゃねーのか?」
「……そうなのかな?」
あまり知られていない事実であるが、アンドロイドがまるで人間のような柔軟的な思考を持てている理由は――実際に、人間の記憶をコピーしてアンドロイドに移しているからである。
アンドロイド研究者が何年も膨大かつ厳密なデータをプログラムして、それでも人間のガワだけ取り繕ったような作り物感満載なのが『第一世代~第四世代』のアンドロイドであった。
プログラムを構築するには、どうしても時間と労力がかかるらしく、その上第四世代までのアンドロイドはどうしても不測の事態に弱かった。単純な作業ならまだしも、人間の代わりになるようなアンドロイドは研究者から見ても、つい十数年前は現実的ではなかったらしい。
――しかし、その常識が、一人の天才研究者によって全て覆った。
『ゼロから人間を生み出すのが無理なら、人間の記憶からアンドロイドに近づけて行こう』
既に人間の記憶のデータ化する技術は完成されていたこともあり、アンドロイド開発は今までの停滞が嘘のように進んでいった。
そして、人間の記憶データから個人情報等のデータといくつかの破ってはいけないルールを書き加えて生まれたのが――『第五世代』である。
第五世代が生まれた時は人権無視だとかで抗議が殺到したが、皆がアンドロイドの便利さに気付いて次第に世界に馴染んでいった。今ではアンドロイドを人間扱いしてくれる人の方が珍しい。
少なくとも私が知っている人は、時代遅れのタバコを吸うエディぐらいだ。
『第五世代』はいわゆる量産型だ。一人の人格をベースに開発されたため皆同じような性格をしている。『第六世代』は機能重視。警察や軍人、ボディーガードのような人間を凌駕する機動力を手にする事を目的に開発された。
……で、私を含んだ『第七世代』は、より身近な活躍を目的に開発された。とにかく様々な人間の記憶データをアンドロイド化し、何処の場面でもアンドロイドが活躍できるようになった。第六世代ほど戦闘力は高くないが、価格や下がり体のパーツやアンドロイドの替えが効きやすくなった。
「なんだ、ネルは前の奴の記憶が欲しいのか?」
「いやっ、そんな訳じゃないんだけど……時々訳が分からなくなって怖くなる。今思った感情も、誰かに作られた感情なのかもって。人間のようにドコに生まれたナニってハッキリ分かったら、ちょっとはこの不安も無くなるのかなぁって時々思う」
「ははは。馬鹿だなぁ」
「……え?」
エディは短くなったタバコをけち臭く吸うと、顔を皺くちゃにして笑った。
「そんなもん、人間の俺だって思うよ。人間もアンドロイドも何も変わんねーよ。というか、そんな考えしてる時点でお前はほぼ人間みたいなもんだ」
「………………ッ!?」
彼にとっては何気ない言葉だったかもしれないが、私にとっては目を見開くような衝撃だった。
たまらなく、嬉しい。
どうか、この感情だけは嘘じゃないと思いたいと、雲に隠れて辛うじて見える星に願いを込めた。
「…………ありがとう。私を人間扱いしてくれて」
「ん? 何か言ったか?」
「んー? そろそろバッテリーの貯蓄が無くなるのだけど、買ったって聞いたの」
「……あー……。生きてるだけで金が減っていくのは何でだぁ――……」
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