第3話 学力主義大国

 浩太が夏期講習に通っているのは、母に尻を叩かれてのことでしかない。


 いや、それも直接の原因とは異なる。


 母は当初、浩太を塾に行かせる気などなかった。


 何を企んだのか晶が「浩太君は塾に行かせないんですか?」などと進言したのが始まりだ。


「でも、うちの子は勉強駄目だから」


 最初は笑っていた母だったが、


「今のうちに勉強させておかないと大変なことになりますよ。悲しいことですけれど、社会的には学力が人間の力を測るモノサシです。今の日本は学力主義大国で、良い大学に入らないことには良い会社に入れないんです。良い会社とは人によって解釈が違うとは思いますけれど、学力が高ければその分だけ選択肢が増えます。選択肢を増やすという理由だけも、勉強させるには価値があると思います。最低限の常識がないと大人になった時に恥ずかしいですし、勉強できるのは学生の間だけですよ!」


 晶に熱弁されて、母はころっと洗脳されてしまった。


 母が出した結論は「晶ちゃんが言うなら通わせてみようかな」だった。


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