第58話 許嫁(5)


 なんだかんだで、結局、私とシン様の二人が正妃になるということで決着がついた。


 流されてるな私……。

 そう思い、流れに逆らおうとしたけど、時すでに遅し。濁流となって襲いくる星様という奔流の前では、抵抗虚しくあれよあれよと流された。


 星様は、私と顔を合わせる度に「私が第一正妃で、貴女が第二正妃よ!」と、言い張っているが、天くん曰く、第一も第二もないらしい。

 私も特に気にしていない。

 どっちでも良いわ。


 式典は、星様が私と一緒にやるのは絶対に嫌だと言うので、「私は式は、やらなくていいです。その代わり、菊露ジュルちゃんを私の補佐役にして欲しいです」との要求をした。


 その要求はスムーズに通り、今では菊露ちゃんと相部屋で仲良く生活している。


 ◇


 今日は、星様が天くんの正妃になったことを祝う式典。

 入宮式を行った広場に、入宮式を遥かに凌ぐ数の人が集まっている。幾つものテーブルが置かれ、その上に料理の盛られたお皿が並べられている。

 立食パーティーのよう。


 私はと言えば、菊露ちゃんと一緒に広場の隅の方で、なるべく目立たないように突っ立っていた。


「料理、美味しそう!」

「美城さん、がっつくのはやめて下さいね。一応、美城さんも正妃様なんですから」

「一応ね」


 そう。あくまでも一応。

 星様が精力的に、「私が天様の正妃よ!」と、あちらこちらで流布した成果が実り、世間は、星様が天くんの正妃様という認識で落ち着いた。

 私の影は、そこにはない。


 そんなこともあって、かなり自由にさせてもらっている。正妃という立場を忘れるくらい。

 そもそも、就職先の若社長の正妃。と言ったら、普通は妻の立場を連想しそうなものだけど、ここではそうではないらしい。

 だって、婚姻届にサインもしてないし……。


 結婚衣装を見せられて、眼鏡君に、この衣装は君が着るんだよと言われた時は『結婚』という二文字に心底驚いたけど、蓋を開けてみれば、なんてことはない。

 今となっては、社長秘書になったようなものと、一人勝手に納得している。


「ねえ、菊露ちゃん。あの料理を部屋に運んで二人でパーティーしない? ここ居づらいし」

「少しだけですよ」

「私、ビュッフェとか行くと、全種類食べてみたくなる派なんだよね~」


 料理の盛られた取り分け皿を両手に持って自分の部屋へと帰る。

 そしてまた式典会場へと戻り、料理を運ぶ。

 菊露ちゃんと二人で三往復し、部屋には二人で食べきれるのか怪しいほどの量の料理が並んだ。


 わ~い!

 美味しそう~!


「いただきま~す!」

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