第57話 許嫁(4)


 シン様の嫉妬の炎がめらめらと燃えている。


 アツいっ! アツいわ!

 ちょっと、天くん早くどうにかしなさいよ!


 天くんがオロオロしながらも慎重に言葉を選びながら星様に語りかける。


静香ジンシャン、お前を四夫人スーフーレンには必ずするし、毎日お前の所に行くことも約束しよう。正妃など所詮は肩書きだ。お飾りだ。四夫人スーフーレンであれば実務を取り仕切ることができる。むしろ、権力は上かもしれないぞ」

「それでも私は正妃が良いのです。幼き頃から天様の正妃になるために生きて参りました。正妃になれぬというのなら、いっそこの場で殺して下さりませ。これ以上の生き恥はさらしとう御座いませぬ」


 およよよよと目を袖で覆う星様を見ていると、何かのドラマでこんなシーンがあったようなとデジャヴに襲われる。

 ドラマじゃあるまいし、いくらなんでも死ぬ必要はないのでは。

 そんな私の心の声が聞こえたのかしら。

 星様に顔を向けると、バチリと目があい、キッと睨まれた。


「天様! この女のどこが良いのです? 貧相な顔に、貧相な体つき。貧相な服装。貧相な性根。何一つ取り柄がないではありませぬか」


 本人を目の前にして、そこまで言わなくても……。意外と傷つくわ。

 傷心の私は、傷つきながらもふと思いついたことを口にする。


「いっそ正妃の人数を増やせばいいんじゃないですか? 天様はさっき、正妃は所詮肩書きだって言ってたじゃないですか。それなら、二人や三人同じ肩書きの人がいてもいいんじゃないですか?」

「貴女は頭の中も貧相なのですわね。よくもまあ、そんな面白くもない冗談が言えるものですわ」


 ムカ。

 っとしたところに、天くんの一言が響く。


「なるほどな。一理あるな」

「は? て、天様、本気なのですか? わたくしは、こんな女と二人で正妃など絶対に嫌ですわ」


 ムカムカッ!


「星様。正妃など所詮は肩書きだと、先程天様が言っていたじゃないですか。それに、どれだけの数の女が正妃になろうが、星様が天様の愛を独り占めなさればよいではありませんか。星様の美しさなら、それは容易に可能だと思います」

「あら……、まあ、そうね。それは、そうかもしれないわね」

「そうですよ! 星様のお美しさに比べたら、世の中の女なんて……」

「貴女……、人を見る目だけは貧相ではないようね。よく見えているみたいね。……ごめんなさい。少し私も言い過ぎたわ」


 少し? かなり言い過ぎたの間違いでは?

 ふと、脳裏をそんな言葉が走り抜けたけど、口には出さなかった。

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