第44話 采女(7)


 坊ちゃんの部屋の前を通り過ぎる。

 ある程度進んで、引き返す。

 そして、また通り過ぎる。引き返す。通り過ぎる……。

 ウロウロ、ウロウロ。

 さっきからこれを繰り返していた。

 端から見たら、只の怪しい人だわ……。


 だってさ、だってさ……。

 入りづらいんだも~ん!

 なんて言って入ったらいいのよ~。

 誰か、誰か教えて~!

 と、坊ちゃんの部屋の前で、一人悶々としていた時だった。


「おい、どうした?」


 その一言と同時に、背後から肩をポンッと叩かれる。


「ひいぃぃぃ!!」


 ドキドキ、ドキドキ。

 あ~、びっくりした~。

 口から心臓が飛び出るかと思った。

 ちょっと、坊ちゃん、驚かさないでよっ!


「なんだ? どうしてお前がここにいる?」

「え……? ちょ、ちょっと天様、私言いましたよね? 先輩女官三人の報告に行きますよって」

「……ああ」


 ああってナニよ!

 あっ! さては、忘れてたな~!

 んもうっ!


「まあ、入れ」

「あ、はい……」


 部屋に入り、坊ちゃんに、先輩女官三人について報告をする。


 三人の部屋を変えたこと。

 制服をジャージに変えたこと。

 食事を、みんなと同じものに変えたこと。


 その三点を報告し、様子を伺う。


「ああ。分かった」


 あれ?

 意外なほどスムーズに済んだわ……。

 なに勝手なことしてんだ! って、怒られるかと思ってたのに。

 少し拍子抜け。


 取り敢えずここまでが報告。

 さて、本題はここからよ。


「あの、それで、今の女官三人体制、私を含めても四人体制のままだと、なかなか休みが取れなくて。できれば、もう少し人を増やして欲しいんですけど……」

「それは……厳しいな。金がない。経費は係ごとに割り当てられるが、俺のところには殆ど入ってこない。爺とお前とあの三人で精一杯だ。御堂河内みどこうちが昨日までいた尚寝シャンチンの係であれば、かなりの額が貰えるからな。百人や二百人平気で雇えるんだがな」

「そうですか……。分かりました。人手不足については、もう少し考えてみます。夜分遅くにありがとうございました。では、おやすみなさい」


 むむむぅ~。

 お金か~。

 お金の話となるとなぁ~。難しいなぁ~。

 取り敢えず、自分の部屋に戻って、ゆっくり考えよう。

 と、ドアノブに手を掛けたまさにそのときだった。


「御堂河内、待て!」


 鬼気迫る声に、思わず振り返る。


「はい。なんでしょう?」

「俺の部屋に泊まっていけ」


 ……は!?

 はあぁぁぁ!?

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