第42話 采女(5)


 坊ちゃん邸は、ほぼ正方形の形をしている。

 真ん中には、小さな公園ほどの中庭がある。その中庭をぐるりと囲むように部屋が配置されていた。


 真上から見たら、漢字の『口』みたいな感じ。

 一階と二階合わせて、四、五十部屋はありそう。

 とにかく、空き部屋が多い。

 そりゃそうよね。

 住んでるのは、坊ちゃん兄弟とダンディーおじいさんと、私と先輩女官三人の計七人だけなんだもん。


 どうせ使ってないなら、有効活用しないとね!

 ってことで、先輩女官三人のお引っ越し。

 地下のジメジメしたカビ臭い地下牢から、一階の空き部屋へ移動よっ!

 許可は取ってない。

 だって許可を取る相手がいないんだもん。

 事後報告よ、事後報告!


「ホントに良いの? こんなに素敵な部屋をもらっちゃって」

「イイんです! 今までが酷すぎたんです」

「美城ちゃん……。ありがとう」


 衣食住の「住」はこれでオッケー。

 次は~、「衣」ね!


「先輩方は、どんな服が好みですか?」

「う~ん。好みは別にして、動きやすい服がいいな。この服、仕事の時に動きづらいの」


 なるほど。

 動きやすい服って言われて私が思い浮かべるのは、やっぱりジャージかな。

 でも、後宮に来てから、ジャージを着てる人を見たことはないのよね……。

 雑多市場ザドゥシーチャンに行けば、売ってるかしら?


「ジャージなら、動きやすいと思うんですけど、どうでしょう?」

「ジャージ? それってどんなの?」

「えっ?」

「え?」


 ジャージ、知らないのかしら……。


「こういうのなんですけど」


 我ながら絵心の欠片もないイラスト。

 だぁぁ。ヘタクソだぁ!

 知ってる人が見ても、ジャージって分からないんじゃないかしら……。


「へ~。確かに動きやすそう! 美城ちゃん、生地と服飾素材を使っていいかなぁ? もし良ければ、私が作ってみようかなって」


 そう声を上げてくれたのが、三人のうちで一番小柄で可愛らしい顔をしたフォ 月帆ユェファン先輩。


 おおぉ~。

 ぜひ、作りましょう!

 ってことで、ジャージ作り開始で~す!

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