第41話 采女(4)


 面談は一人ずつ行うことにした。

 一人の方が、言いたいことを言いやすいしね。

 

 それにしても……。

 どの先輩も本当に疲れきった顔をしていた。ずっとうつむいて、自分の足元を見ている。

 口を開くのも、息をすることすら面倒くさそうに呆けていた。


 暫くは一方的に私が喋ってた。

 でも、なんの反応もなくて……。

 聞いてないのかな?

 私が一人で空回りしてるだけなのかな?

 もう終わりにしようかな……。

 そう思って、最後に髪飾り事件の話をしたの。しなくても良かったんだけど、半分投げやりだったのよ。


 その話の最中だった。

 「フフッ」っと、俯いた先輩の顔から笑い声がこぼれたのよ。


 あ! 笑ってくれた。やったぁ!

 って、なんで私の黒歴史は、こんなにも好評なのかしら。

 鉄板になりつつあるわ……。

 複雑な気持ちだわ……。


 それをきっかけに、先輩方もポツリポツリと自分のことを話してくれるようになった。

 これならもう少しだけ突っ込んでみても大丈夫かな?

 そう思って、思い切って言ってみたの。


「誰にも言いませんから、仕事上でも私生活でも何でもいいので、不平不満があったら全部吐き出しちゃって下さい」って。

 そしたら、まあ、出てきた出てきた。

 湯水の如く。

 今まで、ずっとその不満をどこに溜め込んでたのかしら?

 身体の奥底に四次元空間でもあるのかしら? って言うくらい……。


「昨日までの采女ツァィニュは、私達三人を殺す気かって言うくらい働かせた。寝る間もなくて、深夜遅くまで働かせて、休みもロクになし。そのくせ、自分だけはのうのうと休んでた。私達がミスをすると、全部私達のせい。私達が良い仕事をすると、手柄は全て自分のモノ。天様に取り入ろうと必死だった」


 う、うわぁ。

 チョーブラック体質。

 真っ黒々だわ……。


「衣食住も悲惨。持ってる服はこの制服だけ。アンタらに休みはないし、どこにも行かないんだから、私服はいらないだろって。食事もアイツの残飯ざんぱん。部屋は窓もなくて一年中かび臭い真っ暗な地下牢。何度、辞めようかと思った。でも、ここを辞めても、三人とも行く先なんてなくて……。アイツの目を盗んでは、三人で、どうやってアイツを始末するかってことばかり話し合ってた」


 ちょ、ちょっと待って待って!

 し、始末って……。

 こ、こわいわ……。


「もう限界で、いよいよヤッてやろうかってときに、突然アイツが解任されて、貴女が来たの」


 ヤってやる……。

 な、なにを……。

 いやいや、考えるのはヤメヤメ。

 ぎ、ぎりぎりセーフってことね。

 間に合ってよかった。

 先輩方が、もう少しで犯罪者になってしまうところだった気がするわ。


 むむぅ~。

 坊ちゃんは、屋敷のことは全部任せたって私に丸投げしてきたけど、これは、仕事の割り振り云々うんぬん以前の問題の気がする。

 まずは、このブラック体質を改善する必要があるわね。


 おじいちゃん、おばあちゃんを幸せにするには、まず従業員が幸せじゃなくっちゃね!

 目指せホワイト企業っ!

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